* * * 解 説 1 * * *
本書は心理療法の初回面接,そしてそこで行われる力動フォーミュレーションと一般に呼ばれる手続きを主に取り扱っています。心理療法というのは狭くは治療法ですが,同時に,ある特定のコミュニケーションの方法とみなすこともできます。つまり問題を抱えている人,悩んでいる人,そして病んでいる人とどのようにコミュニケーションするかという意識から発展した技術です。そこではどうやって病んでいる人たちに接して,彼らと共同作業していくかというプロセスについての配慮が働いています。初対面という言葉があるように,人とどう出会うか,最初の出会いが,きわめて重要であることは間違いありません。初回はその後の出会いをかなり左右します。入り口で「場を設ける」ということです。その場合,「居場所」「より所」「文脈」がキーワードになります。心は単体では存在しない,というのは精神分析家ドナルド・ウッズ・ウィニコットの「居場所」や抱える環境論の発想ですが,文脈という言葉のほうが私にはフィットしますので,多くの場合,こちらを使わせていただきます。最初に良い文脈を構成できると,つまり初回面接が順調に始まると,心理療法はその人の心のより所になったり,居場所になったりします。つまり,この3つの概念は連続しているのです。
●目次
序章 はじめて出会うとき
はじめに/心のより所/ホームのパラドックス/迫害的な対象/スリルと退行
第1章 最初の出会い:場を設ける
前提となる文脈/予約(電話)を受ける/出会いの前提:構造と設定
第2章 治療同盟を作る
連れてこられる人たちが多い/作業同盟への道/よく分からないものへの驚き
第3章 不安への対処:足場を作る
不安を読み取る/構造を設定する:面接の場所/セラピストの姿勢/合意形成の確認
第4章 治療様式を選択する
偶然の出会いから体系的な選択をする/パーソナリティと症状/内省と交流/分析可能性を探す
第5章 仮の宿:抵抗,転移,逆転移の話
語りにくいことや語られざること/抵抗=防衛が常に働いていると見なす/出会いの新鮮さ:転移の出現/ある程度まとまった物語になっていく/セラピストの「独り言」/査定(アセスメント)という芸
第6章 失われた居場所:緊急対応
緊急対応の場合/居場所の喪失と崩壊
第7章 心理力動ケースフォーミュレーション
初回面接の到達点/フォーミュレーションのための心理テスト/無意識を浮き彫りにする読解方法/実際のやりとりから/再びホームヘ:ウィニコットの実例から
終章 now/here今ここでの/どこでもない場所
心は細部に宿る/終わりを有効に使う
参考文献/索引
* * * 解 説 2 * * *
「居場所」というときに,私たちが第一に思い浮かべるものは,「より所」「避難所」「ホーム」「住まい」などでしょう。それは私たちがどのようにして自分を成り立たせているか,そのあり方と関係しているからです。でも居場所を確保できたときに重要なのは,物理的な空間ではなく,実際の時間でもありません。それは放浪遍歴の人々が悟ったような自己意識,どこにいても大丈夫だという感覚を理想としたものです。それは自分の人生をどれだけ自分の一部と感じているか,ということなのです。それはすなわち,心のなかに生み出される心理的な時空,スペースとか間とか,あるいは余裕やゆとりと呼べるような何かがそこにあるかどうか,なのです。「心」という言葉が重要になるのはそのためです。心がその居場所を見出せないとき,ものとしての居場所が心の居場所になってしまったとき,心が自分の身体や意識のなかに居場所を見出せないとき,人は,どこにいても大丈夫ではない,どこにも自分の居場所はないと感じています。ここで心理療法の出番です。どこにも行き場がない気持ち,心の居場所を求める気持ちが心理療法の出発点です。ですから,そうした不調や乱調のときに,心の治療の専門家として私たちがどのようなことに配慮して,どのように対応しているのかを分かってもらうことは,人と出会い,その人の心の居場所を考える,主にコミュニケーションを考えているあらゆる人にとって,いろいろな領域で有用ではないかと推察します。
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