本作品は2巻構成で、5作品からなる連作短編集です。本巻の「その弐」には、後半の2話を収録しました。「とにかく面白い小説が読みたい」がキャッチフレーズの「暮らしの小説大賞」で、応募総数714作品の中から一次選考を通過し、44作品に残った小説です。(平成30年度) 大相撲のたった一番の取組みで繰り出された一本の上手投げ。その一本が奇跡を引き起こす心温まる物語です。 登場人物はそれぞれ、一見何の関係も結びつきもない市井の人々。それらの相撲とはほとんど縁のない人物たちが、ある力士が繰り出す一本の上手投げによって、人生を見直し、明日も生きていくことができる勇気を得られるというストーリーです。 第一話は、高校生がアルバイト先で金を盗んでしまい、いつか自分が犯罪組織から抹殺されるのではないかと怯えて暮らす内容がベースです。やがて彼は見えない力によって国技館に導かれ、死に直面する危機を迎えます。高校生がどうやってその局面を乗り切るかが最大の読みどころです。 第二話は、ある出来事が原因で声を失ってしまった女性が主人公です。乳母車を押しながら公園にやってくる彼女は、ちょっとした理由によりママ友たちから気味悪がられていました。ひょんなことから大相撲のチケットをもらい初めて観戦に訪れます。そこで彼女に劇的な変化がもたらされる物語です。 第三話は、小料理屋のとある「ジンクス」がベースです。その小料理屋の女将は今は幸せに暮らしていますが、ちょっとしたジンクスが、店を不景気にさせています。ある時、不景気な店に現れたタクシーの運転手が、女将と深いかかわりを持つことが徐々に明らかになり……力士の上手投げによって不思議な運命に導かれるように、大どんでん返しの展開を見せていきます。 第四話は、絵本作家を母親に持つ女子中学生が、ちょっとしたきっかけからいじめを受けますが、上手投げによって救われるという内容です。母親は天才絵本作家。でも時々行方が分からなくなります。一方いじめられている女子中学生は、相手を自分の「土俵」から葬り去る決意をします。稲妻上手投げの不思議な力と、母親の絵本のストーリー、そして自分の名前に奇妙な符丁がみられ……少女に生きる勇気を与えます。 第五話は、これまでの四話を総括する物語です。 人々に勇気と力を与える「稲妻上手投げ」は、実は二百五十年前に実在した「雷電」を倒した力士と深い関係があり、物語は現在と過去を行きつ戻りつしながら進みます。雷電は生涯でわずか十敗しかしていないのですが、その雷電をたったひとりだけ二度破ったの力士の執念、そして婚約者を津波で失った女性や、角界から葬り去られた元力士との絶妙な掛け合い等が軸となっており、女性が披露する腹話術も物語の大きな鍵となっています。最後の大どんでん返しが最大の読みどころです。 前半の第1話〜3話は、「上手投げStories その壱」に収録しております。
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