今日、私たちが直面するCSR問題は、企業にとって見過ごすことのできない「リスク」として顕在化しはじめているだけに、その対応によっては企業価値に重大な影響を及ぼす可能性を秘めていることを認識しておく必要があろう。それでは、CSRとはそもそも何を意味しており、企業の経営主体はCSR問題とどのように向き合って、いかなる視点から具体的なアクションを起こせばよいのだろうか。
CSRに関わる諸事象は企業経営に携わる人々にこうした問いを投げかけているが、今日のCSRに関する議論を整理する場合には、企業の自律的な内部活動のあり方に注目して、今後、時代や経営環境の変化にどのように対応すべきかをあらためて問い直すことこそが重要と考える。つまりCSRをめぐる問題への対応策として、企業組織体制の強化が必要不可欠であるという観点に照らすと、企業における内部統制問題と社会的責任にかかわる問題は、別次元の議論ではなく、両者を一体として捉えて企業経営のあり方そのものを見直す時期に差しかかっていると受け止められるからである。こうした捉え方は、例えば、新会社法と金融商品取引法で規定された内部統制システムによる企業のガバナンス体制強化の視点や、マネジメントシステムそのものを見直すべく規格化が決定された国際標準化機構(ISO)における組織の社会的責任に関する国際規格の考え方と軌を一にするものといえる。
しかし、一連の流れを重く受け止めたとしても、その取組度合や進捗状況などが把握しづらいなどの壁が立ちはだかるために、CSR活動の遂行に向けては、企業の内部的な活動実態を可視化して企業内外のステークホルダーに合理的に説明できるベンチマークが必要となってくる。この視点は、従来のように財務的な側面だけでなく、ステークホルダー全般にその対象範囲を拡張し、長期的な視点からより適正かつ社会的意義のある企業評価の実践が求められていることとも符合する。これらの内容を踏まえると、CSR活動を会計的手法によって可視化する「CSR会計」の意義は、企業の自律的かつ健全な事業活動を促進させ、経済社会が地球環境や人間社会全体と調和しながら持続的に発展するための社会的インフラとしての役割を担う点にあることが明らかとなる。
上記の問題意識に基づき、本書ではCSR会計モデル確立のために企業の果たすべき社会的責任をステークホルダーとの関係から明らかにして、CSRを経営戦略の中に取り込んだ企業活動の成果を測定・開示する会計モデルの理論的枠組みを提示している。すなわち、本書の狙いは、会計情報をつくり出す企業組織のあり方に着目することにより、CSRリスクマネジメントの会計学という視点に立脚してCSR会計の現在を見渡し、将来の方向性を明らかにする点にある。
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