「治療中断の一年後、ブロイアーはフロイトに、彼女はすっかり錯乱している、彼女は死んだほうがよいのではないか、そうすれば苦しみから解放されるのにとさえ思う、と打ち明けた」
ヨーゼフ・ブロイアーとジークムント・フロイトの『ヒステリー研究』(1895)において提示された「症例アンナ・O」。この症例は、のちにアーネスト・ジョーンズによって書かれたフロイトの伝記が発表されて以来、「『ヒステリー研究』の記述にあるような輝かしい成功ではなく、治療は失敗だった」と見なされるようになった。
ジョーンズによれば、アンナはブロイアーによる治療ののち、重篤なモルヒネ依存に苦しみ、毎日幻覚状態に陥っていたという。そしてこの事実は後年、治療後のアンナの足取りを追った医学史家アンリ・エランベルジェの研究によって追認されることとなるのである。
はたして、症例アンナ・Oの治療は本当に失敗だったのか? 本書は、『ヒステリー研究』の治療記録、アンナの入院先の医師による記録、関係者の書簡、追跡研究などの膨大な資料を掘りおこし、その治療結果の真実に迫るものである。精神分析学の始まりとなった症例の謎が、いま解き明かされる。
序
緒論 アンナ・O症例の来歴
第1部 症例の展開
第一章 一八八二年の症例報告
第二章 その後の証言
第三章 症例研究の出版
第四章 フロイトの説明ーー再構成
第五章 防衛と性愛
第六章 転移とファウスト的命題
第2部 伝説の生成
第七章 伝説の誕生ーーアーネスト・ジョーンズ
第八章 伝説の発展ーーアンリ・エランベルジェ
第九章 伝説の成熟ーー諸説の派生
結 論
原 注
年 譜
文 献
索 引
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