本書は、Murray N. Rothbard, For a New Liberty Second Edition, (Ludwig von Mises Institute, 1978)を日本語に翻訳したものである。第1版は1973年に出版されている。1978年に出版されたこの第2版では、第1版出版後のアメリカの政治・経済的危機、1972年のウォーターゲート事件、1976年のリバタリアン党の躍進などが挙げられている。本書の書名は「新しい自由のために」であるが、著者のロスバードは自由至上主義者(リバタリアン)である。ロスバードの思想は、すべての人間は生まれながらにして自由で平等な自己保存の権利を持つという自然権の考えに依っている。個々の人々が自分の身体と財産をどのように使おうが自由である。ただし、他人の身体と財産を侵害してはいけない。ロスバードはこの不可侵原則をあらゆる分野に一貫して適用し、自由至上主義(リバタリアニズム)の体系を築き上げた。この考えから見ると国家は侵害者でしかない。税金は財産の強制的な没収だし、徴兵制や特に公立学校の義務教育は身体の自由を奪う。特に前者は生命さえも奪われる可能性が大きい。中央銀行による法定不換紙幣の発行やインフレ政策もまた財産の没収であって、国家と銀行が結託して詐欺を働いている。景気循環が起こるのも国家のせいだ。すべてがこういう調子であるから、ロスバードは極めて適切に「国家の敵」と呼ばれている。現代に山積する諸問題の解決策を提示できる思想はリバタリアニズムだけである。社会主義は論外だし、保守主義はせいぜい現状維持しかできない。リバタリアニズムによる解決策は、もちろん国家を無くすということだ。国家の無い世界。これは空想主義ではなく現実的だとロスバードは言う。しかし国家がなければ公共財が供給されなくなるではないか。これに答えてロスバードは道路の民営化について例示する。国防や警察、法律、裁判はどうなるのか。たとえ自由主義者であっても最小国家(夜警国家)までは否定できない。しかしその答も本書にちゃんと用意されているのだ。本書は、副題が「リバタリアン宣言」というだけあって、リバタリアニズムの思想を統合した内容になっている。リバタリアニズムを、特に無政府資本主義(アナルコ・キャピタリズム)を学ぶにおいて非常に重要な1冊であるといえる。本書は一般向けに書かれているので比較的読みやすいし、網羅性があるのでリバタリアニズムの全貌を理解するために何冊ものリバタリアニズムの本を読む必要もない。ただし内容が一般向けであっても、ロスバードは一般向けに論調を和らげるような事は一切していない。周囲にいるリベラルや社会主義者、保守主義者を片っ端から叩き切るような鋭い意見をこれでもかと言うほど発している。そういう意味では好き嫌いが分かれる内容でもある。リバタリアニズムに少しでも同調する向きのある人にとっては、本書の内容は非常に明快で心地よく、他にはない素晴らしい愛読書になるだろう。
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