本書「力と市場」は、Murray N.Rothbard, ‘Power and Market: Government and the Economy, 4th Enition’, Auburn, Alabama: Ludwig von Mises Institute. 2006を和訳したも のである。 著者のマレー・N・ロスバードは1960年に「人間、経済及び国家」(Man, Economy and State: A Treatise on Economic Principles)を出版した。「人間、経済及び国家」は2部構成 で、日本では吉田靖彦氏の訳で、上・下巻でそれぞれ2000年、2001年に出版されて いる。「力と市場」は当初、第3部として出版される予定であったが、「原稿の長さと彼の政 府の分析の主流ではない政治的な結論が幾らか多すぎたため」(本書「第4版のまえがき」注 釈より)別の本として1970年に出版されている。 「人間、経済及び国家」は全12章で構成されていて、ロスバードは師のルートヴィヒ・ フォン・ミーゼスの代表作「ヒューマン・アクション」と同様に、「人間は行為する」という 人間行為学の公理から論を始めて、主観的価値や時間選考の理論を加えて演繹し、論理的に 自由な市場経済の姿を描写している。自由な市場経済の世界には「生産」と「消費」しか存 在しない。ところが最終章で政府が登場することにより「分配」という考えが出現し、自由 な経済は抑圧され歪められる。この最終章「市場への暴力的干渉の経済学」を詳細化して描 写したのが本書「力と市場」である。 ロスバードは政府の経済の干渉を、2者間干渉と3者間干渉に分けてそれぞれを分析する。 2者間干渉は、政府が対象者に交換や贈与を強制するもので、補助金、政府企業、そして課 税などが当てはまる。3者間干渉は、政府が2者間の交換を強制したり禁止したりするもの で、政府による価格管理、生産の管理、規制などがあてはまる。そのすべてが例外なく自由 な経済活動に悪影響を及ぼし、最終的に我々の生活水準を低下させることになる。本書の第 3章から第5章でこれらの理論が展開される。 第6章では、人間行為学の観点から自由な市場経済への批判に反論を行っている。例えば、 市場経済は格差を拡大するので不平等であるとよく言われる。平等は「機会の平等」と「結 果の平等」に分けて考える事が多い。結果の平等は、それぞれの個人が働いた結果としての所得を同じにしようというようなものである。未だにこのような意見を聞くことがあるけれ ども、ソ連崩壊後は影をひそめ、機会の平等が必要だと言うようになっている。仕事をした 結果の所得は問わないが、仕事に就く機会は平等にしないといけないというものだ。こちら の意見には大抵の人が首肯するのではないだろうか。しかしロスバードは機会の平等も否定しているのである。
レビュー(0件)