宗教儀礼から広く展開した祭祀芸能は,神や鬼など多様な表現手段として仮面劇を活用し,古来より祭祀儀礼を担ってきた。日本の伝統芸能である能や狂言,また地域の祭りにみる田楽などもそうした祭祀芸能として発生し,中国や朝鮮半島との交流の中で発展してきた。
本書は,これまで誰も成し遂げてこなかった,中国・朝鮮・日本の祭祀芸能を,文献の渉猟と長年にわたる現地調査に基づいて比較,分析し,東アジアの芸能全体の発生・展開・伝播の状況を俯瞰した画期的な業績である。
本書前半では,三国に一章ずつを割り当て,1豊作や幸福を神に祈る祈福祭祀芸能,2災害を免れることを神に願う攘災祭祀の芸能,3横死者の祟りを鎮めることを神に求める鎮魂祭祀の芸能,という三つの芸能に分けて,その歴史的沿革と現状を概観する。
その上で後半では,中国と朝鮮,朝鮮と日本,中国と日本という二国関係において,上記三種の芸能にどのような影響が認められるかを解明する。さらには三国間でどのような共通点と相違点があるか,また社会や市場の違いが仮面劇の盛衰をいかに決めたのか,村落共同体の有無の影響など,芸能を規定する社会構造の違いをも浮き彫りにする。最後に,西洋の演劇や美学との比較を通じて東アジアにおける悲劇の位置づけを論じる。
中国演劇史研究で多くの業績を上げてきた著者が満を持して上梓する本書は,比較を通じ中国史や日本芸能史に新たな視座を提供するとともに,伝統芸能や現代演劇に関心をもつ読者に演劇の奥深い魅力を伝えてやまない。
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