精神分析技法論
: カール・オーガストゥス・メニンガー/小此木啓吾
●今や,精神分析の一般理論と実践方法とは,科学の分野の常識になっている。それらについては,たくさんの書物,中でもその創始者(フロイド)の著作集を通して学ぶことができる。精神科医なら誰でも,基礎的な精神医学の訓練課程でそれらに親しむ。しか し,個人分析の経験を経た人は,精神分析の理論を別なやり方で学び,理解する。それは過去ーー彼自身の個人的経験ーーと未来ーー彼が(患者との)実践を通して得る経験ーーに光をあてる。精神分析療法の実際は,監督教育による訓練の形で開始される。そしてそれは,教育課程で学んだ理論と個人分析で経験した分析過程に基礎づけられている。
ところで本書は,理論ーーそれも治療理論に関するものである。それは実践の手引きではなく,実践の内に働いているいくつかの精神力学的な諸原理を検討する試みである。それは,主観的経験と客観的経験ーー後者は患者や学生との間で得られたものであるーーの産物である。(カール・メニンガー「序文」より)
●目次
日本語版への序文(カール・メニンガー)
序文
第1章 序論と歴史的概説
第2章 契約
(二人の当事者が行なう,ひとつの取 り引きとして成立する精神分析療法状況)
二人の当事者の契約ーー精神療法の契約ーー精神療法力学ーー精神分析療法の契約ーー料金ーー関係者ーー治療回数の頻度ーーその他の注意事項
第3章 退行
(精神分析療法の治療状況に対する第一の当事者(患者)の反応)
治療経過中に生ずる退行の諸段階ーー統制された欲求不満ーー退行の諸段階ーー進展のための後退における上昇と下降ーー目的語の退行ーー動詞の退行ーー間接目的の退行(置きかえ)--主語の退行ーー退行の反転
第4章 転移と逆転移
(治療過程における第二の当事者(分析医)の不随意的な関与)
逆転移ーー逆転移の発見と修正ーー治療者の性格ーー治療者の中立性と倫理性
第5章 抵抗
(第一の当事者が示す契約目的に反するような矛盾した傾向)
古典的な五つの抵抗形式ーー性愛化抵抗ーー他の形式の抵抗ーー抵抗に関する図式的な要約
第6章 解釈とその他の働ぎかけ
(第二の当事者の随意的関与)
治療者の働きかけーー時機の選択ーー解釈の種類ーー治療過程の図式的な模型ーー材料の秩序正しい継起
第7章 契約の終結
(二人の当事者の離別)
転機ーー適当な中止の時点を決定する基準ーー自分自身との関係ーー他人との関係ーー物事や観点との関係ーーその他の基準ーー精神分析医との関係ーー終結の方法ーー不成功例ーー別れ
解題/参考文献
訳者あとがき(小此木啓吾)
訳者あとがき(岩崎徹也)
■解説
本書の内容についてごく概略を説明すると,第1章でフロイドにはじまる精神分析学の歴史が現代にいたるまでどのような流れを追っているかを,とくにそれまでの技法をめぐる各論文を中心にしてのべている。また,ここではフロイドをはじめとする精神分析の古典が,現代的なレベルでどのような意義をもつかをこまかく解説しており,本書を手引きにフロイドの技法論,その後の技法研究を系統的に学ぶ道が開かれると思う。第2章から第7章までは,精神分析療法の過程が,開始から終結まで順を追って治療契約論と精神療法力学の観点からのべられるわけであるが,まずその基本となる治療者,患者の両者間の契約,とくに精神分析療法の契約の特徴が第2章で解説され,つづいて第3章で退行,第4章で転移の説明が,それぞれ治療関係のなかでの相互作用という観点から展開される。さらに第5章では抵抗について,これを契約の目的にそぐわない逆説的な現象としてとらえ,つづく第6章では治療状況に対する治療者の意図的な関与という側面から解釈その他治療者の働きかけについてのべ,最後の第7章で以上の契約関係の終結をめ ぐる問題を具体的に論じている。
* * *
本書は現代の精神分析学,ひいては精神療法一般を理解するに当っての,ひとつの基本的な展望を与えてくれるものである。内容的には対人関係的な観点から説明を試みており,その論旨はきわめて明快なものであるが,それだけにまた,精神分析学の本質が簡潔に示されており,読めば読むほど含蓄の深い本である。したがって先輩諸兄にはご自分の経験をまとめ,より発展的なものにするのにお役に立つことかと思うし,また,はじめてこの分野に入ってこられようとする方がたには,分かりやすいみちしるべになると思う。本訳書が,この種の参考書にいちじるしく欠乏しているわが国に,メニンガー自身がのべているごとく,「患者とともに旅をするための地図」となれば幸いである。(「訳者あとがぎ」より)
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