「小説の魔術師」久生十蘭。その作品群は多様な文体、巧緻な構成といった小説技巧の面で高く評価されてきた。しかしながら、十蘭の作品世界についての網羅的かつ具体的な研究は未だ乏しいのが現状である。本書は、十蘭作品に頻出するモチーフを切り口として、その作品世界を明らめるものである。新資料を含む十蘭の創作全268 作品を網羅的に調査・分析し、そこで得られた知見をもとに作品世界の多角的・総合的解明を目指した。
本書のはじめに
第一章 久生十蘭作品群における〈霧〉モチーフ
はじめに
1〈霧〉モチーフに関する先行研究と作例数
2〈霧〉モチーフの分類および作例分析
2・1 作例分析(1) 2・2 作例分析(2)
2・3〈霧〉モチーフの集成としての「氷の園」
3〈霧〉モチーフ成立の背景
3・1 日本における「霧」の表現 3・2 作家の個人的体験
3・3 先行作品の影響
むすび
第二章 久生十蘭作品群における〈二重性〉モチーフ
はじめに
1〈二重性〉モチーフの輪郭と分類法
2 範疇1--作為による〈二重性〉
3 範疇2--無作為・偶然による〈二重性〉
4 範疇3--夢・狂気・超自然力による〈二重性〉
5 範疇4--所属・空間構造による〈二重性〉
6 分類の総括
7〈二重性〉モチーフの背景
8〈二重性〉モチーフの諸相
むすび
第三章 久生十蘭「鶴鍋」(「西林図」)論ーー敗戦と見立て
はじめに
1 戦争の記憶ーー横浜大空襲と失踪
2 敗戦と民主化ーー家制度の解体と結婚
3 見立ての空間ーー鶴のイメージ構造と素材
むすびにかえて 二つの文脈ーー俳句と滋子
第四章 久生十蘭「予言」論ーー二重化された語り
はじめに
1 語りの第一・第二の特徴
2 語りの原理と第三の特徴
3 幻覚小説の語りと〈二重性〉
むすび
第五章 久生十蘭「母子像」論ーー〈二重性〉モチーフと第二回世界短編小説コンクールにおける翻訳の問題
はじめに
1「母子像」における〈二重性〉モチーフ
2 第二回世界短編小説コンクール「母子像」受賞をめぐる問題提起について
3 世界短編小説コンクールについて
4 日本からの参加経緯
5 久生十蘭「母子像」(英題:Mother and Son)
6 吉田健一の翻訳観
7 石川達三「二十八歳の魔女」(英題:A Witch)
8 永井龍男「小美術館で」(英題:In A Small Art Gallery)
むすび
第六章 久生十蘭「湖畔」論ーー合理と非合理の「幻想文学」
はじめに
1 合理的な物語/超自然的な物語
2 「幻想文学」としての「湖畔」
3 ポー『鋸山奇談』の射程
4 磁場としての合理非合理の相克
5 むすびにかえて 「不安の思想」と〈霧〉〈二重性〉モチーフ
本書のおわりに
〈補論〉新資料・三澄半造名義の久生十蘭作品六篇について
あとがき
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