都内の大学を卒業した翔平は保険外交員の職に就くが仕事がうまくいかず、退職した後アパートの近くにあるフードチェーン松屋で働き出すことになる。翔平はそこで知り合った女性と交際を始める。ある日翔平は、彼女が住んでいる大宮にバスに乗って向かうことになった。その時、車内の掲示物に目を向けると、『乗合バス運転手募集』のポスターが目に留まった。翔平が彼女にポスターのことを告げると、彼女は即座にバスの運転手になりなさいと言ったのだ。 都内に住んでいる翔平はギリギリの生活をしていたため、彼女が経済面を心配して一緒に住まないかと言ってくれた。さらにそのバス会社がさいたま市にあることも重なり、翔平は彼女と同棲することを決意した。その後採用試験に合格した翔平は、バスの運転手としてのスタートを切ることになったのである。 それから四カ月が経ち彼女が妊娠していることがわかった。同時に永かった研修期間が終了した。翔平は家族を支えるために、経験のないバスの運転手という仕事に精を出す決心をしたのである。 独り立ちして数日後、翔平のバスにひとりの老婆が乗車してきた。老婆は隣り合わせた乗客を相手に戦争の話を始めた。老婆は戦争で、兄と恋焦がれていた兄の親友を亡くし、戦争を憎んでいた。それを聞いていた翔平は、高校の時広島記念資料館を見学し、被爆した人々の写真を見て慄然としたのを思い出していた。原爆が投下されたのと同じ八月六日に生まれた翔平は、その時世界の平和を意識するようになったのである。 翔平は先輩からバスの運転手として大切な三つの教訓を学び、日々奮闘を続ける。どんな理不尽なことがあろうとも、笑顔を絶やさず接客にあたる。いつの間にかそんな翔平の態度が乗客に伝わり、数人の乗客の生き方まで変えてしまうことになる。 バスという小さな箱の中にあるさまざまな人間模様を澄んだ眼差しと豊かな心で捉え、一人一人の乗客に笑顔を向ける。老婆との出会いと妻の妊娠そして出産という大きな出来事が翔平の心を動かし、バスの運転手というありふれた仕事の中で人類の命題である世界平和について考える物語である
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