共寝した男女が翌日に別れることを意味する、「後朝の別れ」。それは闇の中で行われた。これまで、その時間帯が注目されることはなかったが、それではあまりにももったいないので、これまでの「常識」をあらためて検討し直す。
恋物語において〈別れの時刻〉として機能するその大事な時間帯は、聴覚や嗅覚の描写によって、男女の別れ際の心の機微が表出されている。ここから物語の読みを深めていく。
聴覚や嗅覚の重要性を、前著『「垣間見」る源氏物語』(笠間書院)で指摘したが、それは「後朝の別れ」でも応用可能である。本書では「暁」を告げる時計代わりの「鶏鳴」・「鐘の音」や、嗅覚に訴える「移り香」の重要性を丁寧に検証した。本書は『「垣間見」る源氏物語』の姉妹編ともいうべき書である。
【 「後朝の別れ」とは、共寝した男女が翌日に別れることを意味する。「きぬぎぬ」とは、その際に互いの下着を交換するという古代の習俗に基づく表現である。それに連動して、帰った男から送られる手紙のことを「後朝の文」という。
平安朝の恋物語において、そういった「後朝の別れ」は枚挙に暇のないほど描かれている。しかしながら、どうしても逢瀬の方ばかりが重視され、別れの場面─特にその時間帯が注
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