主要な推論には,演繹と帰納以外に,アブダクションという推論法がある。演繹が分析的推論であるのに対して,帰納とアブダクションは,拡張的推論である。これらは,ビジネスモデルとして示されるように,単一で使用されると考えられがちだが(純粋演繹,純粋帰納,純粋アブダクション),推論が真に威力を発揮するのは,三者が複合的に使用されるときである。 演繹と帰納と比べて,知名度の低い推論である,アブダクションの定式は,次の通りである。 「驚くべき事実Cが観察される[C]。しかしもしHが真であれば,Cは当然の事柄であろう[H⊃C]。よって,Hが真であると考えるべき理由がある[∴H]。」 この定式で重要なのは,「驚くべき事実Cの観察=ある意外な事実や変則性の観察」という言葉で示される着目対象が何かによってその質・レベルが異なるということである。アブダクションが導き出す仮説は,その質・レベルによって分類すべきあって,それを十把一絡げに捉えてはならないのだ。つまり,アブダクションによって形成される仮説は,直接観察可能な事実の発見についての,日常レベルでの仮説から,化石の地質学的仮説を経て,原理的にも観察不可能な純粋に理論的な対象についての仮説に到るのであり,多種多様なのである。アブダクションが最大の威力を発揮し得るのは,科学的探究の過程においてである(その典型例は,ニュートンの万有引力の法則の発見である)。つまり,科学的探究においては,アブダクションを中心にしつつも,演繹と帰納が組み合わされて用いられるのだ(アブダクション×演繹×帰納)。 実は,アブダクション以外に科学方法論として仮説演繹法がある。仮説演繹法とは,演繹と帰納を組み合わせた科学的な問題解決法である。仮説演繹法は,次の過程から成る。すなわち,それは,〈帰納法に基づく問題の発見→問題解決が可能な仮説の設定→仮説から演繹される命題(=予言)の定立〉,といった三つの段階を経て,最後となる第四段階の「仮説の検証」へ到る。仮説演繹法において,帰納法によって導き出した確信のある仮説に基づいてしかるべき実践(医療の場合は,治療)に移す科学方法論である。それは,短期的な問題解決に適している。今日においても,仮説演繹法は内科医の診断・治療の方法として用いられている。
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