日本料理の基礎が出来上がった江戸時代。後期に入り経済事情が安定すると、ふだんの食事にも胃袋を満たす以上のものが求められるようになる。こうした中で生まれ、洗練されていったのがすし、天ぷら、蕎麦、うなぎだ。腕利きの料理人が現れると、食べ手にも粋人が現れる。この両者が出会い、食の世界に変革がもたらされていった。たとえば、日本橋南詰の天ぷら屋台の名店「吉兵衛」の客が、隣り合わせた屋台のかけ蕎麦に天ぷらを浮かべることを思いつく、といった具合にー。膨大な史料を読み解き、江戸四大名物食誕生の知られざる歴史に迫る、江戸食文化史の決定版!
レビュー(8件)
飯野亮一氏が紡ぐ江戸四大名物食の魅力
江戸の町人文化を彩った四大名物食、「すし」「天ぷら」「蕎麦」「うなぎ」の誕生秘話を味わい深く紐解く一冊。飯野亮一氏は、ただの食文化の歴史書にとどまらず、江戸の社会背景や商人たちの知恵を巧みに織り交ぜ、名物が庶民の生活と心をどう満たしたかを鮮やかに描き出す。特に切そばの歴史と背景に注力し、なぜ江戸で発展したのか、その後も東京で引き継がれる蕎麦屋の暖簾にまつわる興味深い情報が満載。さらに、いまでは全国区の濃い口醤油、当時は「下り醤油」と呼ばれた黒く香ばしい醤油が江戸前のたれやつゆの文化に大きな影響を与え、うなぎの蒲焼が蒲から鎧肩に変わり、つけ焼きに進化して江戸前料理の発祥となる過程には感心が高まる。まるで江戸の屋台を巡る旅に出たような臨場感があり、食への好奇心と歴史への探求心が同時に満たされる。食べ物が単なる「腹の足し」ではなく、人々の営みと文化の結晶であることを、しみじみと感じさせてくれる好著。江戸の四大名物、その一口一口に江戸の粋が息づいているのだなあと、思わず頷いてしまう。
食いしん坊はいやしん坊。見栄っ張りのディレッタント。碌なもんじゃないね、あたしは。