本書は日本思想家選集(新潮社)の2冊目として、蓮田善明著『本居宣長』に続いて昭和18年10月に上梓された。折から芭蕉歿後250年に当り、戦局に対する憂慮を濃くする頃である。保田にとって芭蕉は、家持、後鳥羽院と並んで、なお勝るほどの詩人であり、自身の切実な処世と命に深く関わる先達だった。「芭蕉が私に後鳥羽院を教へた昭和10年」(昭和16年「国学の源流」)と誌しているところからも窺えるように、著者の文学史を貫流する隠遁詩人の系譜の最後の人であると同時に、最初の人とも言うべき存在にほかならない。そうした芭蕉への敬慕と確信の念から書き下ろされた一冊は、知識人の教養的文芸鑑賞とは異なって、文人の存在理由を根底から問うた「思想の書」といってもいい。
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