黄砂は砂漠から飛んでくるという思い込み、植林への思い込みの枠組みをはずす。人の動きと自然現象は予測不可能だが無秩序ではない。人の営みが作り出す景観と、その空間構造にある生活世界の理解なくしては成し得ない「境界を越える」黄土高原の緑化マネジメントを提唱する。
第1部黄砂・黄土・植林をめぐるバイアス
「エコ」は地球にやさしいのか?
第1章 日本の黄砂情報と黄砂をめぐる誤解
1.日本に飛来する黄砂
2.「黄砂」という名称がもたらした誤解
3.発生機序と粒子に関する誤解
4.発生地域に関する誤解
5.軽視できない黄砂発生の人為的要因
6.日本は被害者であるという誤認
第2章 黄砂とは何か、どこから来るのか
1.黄砂粒子の「かたち」
2.黄砂の発生地域
第3章 砂漠緑化の功罪
1.砂漠に木を植えたら緑化できるのか
2.人の経済活動が再生産プロセスを破壊する
3.破壊活動としての植林
4.マニュアル型の植林
5.「最適樹種」という考え
第2部 黄砂の発生する地域における人と自然の関わり
中国内陸部で「緑を回復する」とは?
第4章 里山としての黄土高原
1.人の営みが創りだす景観
2.「禿山に一本の木」が語る歴史・文化・社会
第5章 黄土高原の空間構造がつくるコミュニケーション・パターン
1.侵食谷フラクタルが生み出す生活世界
2.中心地の立地と河谷構造
3.噂の伝わりかたと共有される厚い語り
4.時代の流れにも変わらぬ語りの空間
第6章 黄土高原における「交換」と人間関係の形成プロセス
1.人々の関係を支える交換のネットワーク
2.「相夥」と「雇」
3.農民間の相互作用のモデル
第7章 人間のコミュニケーションが生み出す「緑」
1.朱序弼をはぐくんだ「陝北」という土地柄
2.利益を顧みず働く人を支える「相場感」
3.庿会活動を支える境界なき柔構造
4.「会長」の互酬性と廟の事業展開
5 廟の祭りのマネジメント
第8章 「利益」を顧みない人々の手法
1.朱序弼と庿会植林
2.「境界を越える」緑化マネジメント
第9章 開発援助プロジェクトの予測不可能性
1.意図せざる結果
2.開発援助プロジェクトにおける手法の問題点
3.参加型開発の意義と問題点
4.黄土高原における援助プロジェクトの失敗例
5.当初のもくろみとまったく異なる効果を生み出した事例
第10章 黄土高原で経験した「枠組み外し」の旅
1.住民へ働きかける有効なコミュニケーション手法
2.複雑なプロセスを単純なシステムに置きかえる誤謬
3.黄土高原社会の動的変化を記述する
4.枠組みをはずし境界を越えるマネジメント
レビュー(2件)
精神の型枠を吹き飛ばすインドラの矢
世の中をギクシャクさせている立場主義の型枠を吹っ飛ばすインドラの矢になる強烈な書物だと思います。「タガメ女」では社会(主にメディア)が与えた役割と思想を当時の女性が、また、男性が従順に従った現実を赤裸々に示され、「魂の脱植民地化」では押し付けられた立場に対する自らの魂の抵抗と、その軋轢から生じる自己防衛反応(引きこもり)に言及された深尾さんがさらに深層に踏み込まれた次なる一手、「型枠」の内向的な、また同時にそれが持つ外圧的な暴力について考察が進みます。自らを取り巻く立場や役割という「型枠」が、実は押し付けられるものではなく、外力を受けて自らが生み出す自己制御システムであることに気付かされました。マクロな地形が微細な砂の構造の連続体であることや、自分の立場や考えがいかに相手を萎縮させ、相手の自由を奪い、思想を踏みにじる行為かを思い知ることにも思いが至りました。同時に、これらの摩擦熱を経て、自分の型枠を脱ぎ捨てた先にある自由と、周囲と築いていくべき無理なく相互を尊重する関係性のヒントが多分に含まれていると思います。次世代に受け継いでいきたい書物です。