櫻 幸太 (さくら こうた) 28歳時代は、昭和から平成へと移り変わろうとしていた。幸太は、高校時代、朝晩一日も休まずママチャリに乗り続けた。その三年間、山越えの通学をやり遂げた結果、坂道なら誰にも負けない自信を持つようになっていた。そんな彼が、社会人となり、ふとしたきっかけで、自転車ロードレースの世界と出逢ってしまう。これは、幸太と、その彼を取り巻く仲間たちが、時代の移り変わりを軽やかに生き抜いたひとつの小さな物語である。 -文中よりー 店の奥で、パンク修理をしていた川口達夫は、怪訝そうに立ち上がった。「すみません」 幸太が言った。「いらっしゃい」 達夫が答える。「あの・・ポスターですが?」 幸太が尋ねる。「あぁアレか」 達夫が、ほんの少し笑顔になる。「あれって、ママチャリで出れますか?」 達夫の顔が一瞬キョトンとしたが、直ぐに笑い変わった。「兄ちゃん、アレにママチャリで出るのか?」「はい」 幸太は、真面目な顔で答えた。「兄ちゃん、自転車レースに出るなら、黙ってあれにしな」 達夫が指さす先には、鮮やかな真紅のロードレーサーがあった。
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