「表面的に見えているものとは異なるものを読みとること」としての言葉遊び
本書は「エクソフォニー(Exophonie:母語の外へ出ること)」という語で表わされる文学観を実践しつづける作家・多和田葉子の作品群から、日本語で書かれた中・長編小説を選び、多和田のエクソフォニーを支えたモチーフと理論について書く試みである。各章は、対象作品の製作年代順に配置され、4部構成になっている。読んだことのある作品論から読むことをお勧めしたい。読んだことがなければ第2章『犬婿入り』論、第3章『文字移植』論あたりから入るといいかもしれない。多和田にあっては「言葉遊び」など、2つの言語のあいだにある溝から発せられる文章はもちろん、クィア/フェミニズム的モチーフ(父系の交換体系批判という問題意識)と、ベンヤミンやフロイト=ラカン、ドゥルーズ+ガタリなどの理論という地図をある程度意識し、それらとの不断の対話があってこそ、30年以上にわたるエクソフォニー、そしてエクソフォン文学が息切れすることなく、溺れることなく、また単調になることなく紡がれ、読者に複雑なインパクトを与え続けているのだ、ということが本書において伝えることができればと切に願う。
【第1部 起源への問い】
第一章 欲望主体の成立ー「三人関係」論
第二章 故郷への問いー『犬婿入り』論
【第2部 翻訳すること/書くことについての自覚】
第三章 逃走線の造形ー「文字移植」論
第四章 抑圧されたものの系譜と書くことの危機ー「無精卵」論
【第3部 エクソフォニーの地図】
第五章 思考する女の群れー『飛魂』論
第六章 女から女へと伝わる言葉ー『旅をする裸の眼』論
補遺 多和田葉子の地図ー『旅をする裸の眼』とJ.ラカン『アンコール』
第七章 ホッキョクグマへの生成変化ー『雪の練習生』論
【第4部 震災後のエクソフォニー】
第八章 死の欲動と未来ー『献灯使』論
第九章 女性遊歩者の思索ー『百年の散歩』論
第十章 3.11 以降のエクソフォニー/ノマディスムー「Hiruko 三部作」論
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