経済変数には,時間の流れのなかで周期的あるいは概ね周期的な規則性を伴って反復するものがすくなくない。景気変動はその最も重要な典型例で,多くの経済学者がこの現象の解明に脳漿を絞った。著者自身も景気変動理論の研究過程において調和解析の手法を不可欠とするいくつかの場面に遭遇した。
第一に,N.Kaldorの着想に負う非線形景気変動論である。Kaldor理論の核心は所謂Liénard型の微分方程式に要約され,その周期解の存在を確認する過程から景気循環の発生メカニズムを解き明かす緒が見出されるのである。そのための決定的な原理がE.Hoptの分岐定理である。本書ではこの理論への,調和解析に基づく最も自然なアプローチを詳述した。
第二は,確率的衝撃の重ね合わせが周期的挙動を生成する可能性をめぐっての研究である。これはE.Slutskyの非凡な洞察によって提示された問題であるが,数学的根拠が十分に論証されていなかった。N.WienerやS.Bochnerらの手によって一般調和解析が開発され,漸くSlutsky問題の本質に迫る途が整えられたのであった。
これらの問題にひそむ数理の全貌を基礎から描き出すことにより,周期的経済現象の解明のために調和解析の方法が有する有効性を示すことが本書の目的である。
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