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「言葉と脳」の研究で今最も注目される著者が、議論百出するチョムスキーの言語理論に迫る! 子どもが楽々と言葉を身につけられるのはなぜか? 第二言語の習得が難しいのはどうしてか? 人工知能が言語をうまく扱えない本当の理由ーー。 チョムスキーの理論を言語脳科学で実証し数々の謎が明らかに! すべての自然言語には共通の基盤があり、言語機能は生得的だとする「生成文法理論」は正しいのか。 言語研究の「革命」を告げるチョムスキー著『統辞構造論』を詳しく解説し、生成文法理論の核心となる〈文法中枢〉が脳内に存在することを、言語脳科学の実証実験によって明らかにする! 【内容】(「目次」より) 序章 「世界で最も誤解されている偉人」ノーム・チョムスキー ダーウィンやアインシュタインと並ぶ革新性/文系の言語学を「サイエンス」にしたゆえの摩擦/「猿を研究すれば人間が理解できる」と思っていたが/チョムスキーがモデルにした「物理学」の発想とは 第一章 チョムスキー理論の革新性 現象論だけでは「サイエンス」にならない/「プラトンの問題」〜なぜ乏しい入力で言語を獲得できるのか/行動主義心理学との決定的な違い/「学習説」と「生得説」/チョムスキーが進化論を否定したという誤解/言語は双子から生まれたのかもしれない/文の秩序を支える「木構造」/「みにくいあひるの子」は何がみにくいのか/再帰的な階層性 第二章 『統辞構造論』を読む 言語研究の「革命」開始を告げる記念碑的著作/「装置」と見なせるような文法/動物の鳴き声を研究しても人間の言語の解明は「不可能」/文法のチョムスキー階層/句構造と構成素/句構造などを生み出す書き換え規則/文脈依存文法と文脈自由文法/句構造文法の限界を超えるには/「変換分析」というアイディア/言語理論を絞り込む三つの条件/「言語学的レベル」とは何か/統辞論と意味論/チョムスキー批判に答える 第三章 脳科学で実証する生成文法の企て 文法装置としての脳/脳の言語地図〜語彙・音韻・文法・読解の中枢/入力と出力を超える「脳内コミュニケーション」/自然な多言語習得を目指して/脳の活動を「見る」fMRI/言語能力と認知能力をどう区別するか/併合度の予想値と見事に一致した実験結果/脳腫瘍患者の「失文法」が明らかに 最終章 言語の自然法則を求めて サイエンスにおける「仮説」/都合のよい解釈を避ける工夫/因果関係を証明することの難しさ/悪魔にだまされていないか 【著者略歴】 酒井邦嘉 言語脳科学者、東京大学大学院教授。1964年生まれ。東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。1996年マサチューセッツ工科大学客員研究員を経て、2012年より現職。第56回毎日出版文化賞、第19回塚原仲晃記念賞受賞。脳機能イメージングなどの先端的手法を駆使し、人間にしかない言語や創造的な能力の解明に取り組んでいる。著書に『言語の脳科学』『科学者という仕事』(とも
レビュー(12件)
難しくてほとんどわからないけど、わからないなりの面白さみたいな感じです。酒井さんの文章は読みやすいので読めます。毎日少しずつ読んでます
ヒトの脳には文法装置がある
私は、人工知能の研究をしていた1980年代初頭、チョムスキーの「生成文法理論」に惹かれた。いまも「知能」の定義は確定していないが、はたして人類は自身の「知能」を定義できるか。科学的に比較対象となる異星人の存在が必要ではないか――そうした哲学的な思索の道標となったのが、生成文法理論だった。 著者は、言語脳科学者の酒井邦嘉さん。同い年の酒井さんの目から見たチョムスキー理論を読み、当時の思索を再び思い出した。この間、私は子育てを通じて、生成文法理論の確からしさに納得感を得た。 生成文法理論によれば、あらゆる言語が再帰的な木構造をもち、有限状態オートマトンでは扱えないという。情報理論や人工知能を学んだ者として、これも確からしいという実感がある。 人間の脳に対してfMRIを使った酒井さんらの研究によると、文法装置がブローカ野を含む左下前頭回にあることが分かってきた。さらに、人間の脳は初めから多言語を獲得できるようにデザインされており、同じフレーズを繰り返し聞けば、マルチリンガルも夢ではないという。 最後に酒井さんは、「科学の進歩に求められるのは、相手を負かすための論争(ディベート)やポジショントーク(自分の立場を利用して自分に有利になるように発言すること)では決してない。真理のためにお互いの考えを深めていく議論(ディスカッション)こそが、科学の推進力だ」と締めくくる。まったく同感である。