「関東外周県境山歩き」は、32歳の時に、自分たちの会のヒマラヤ遠征に、家庭の事情で参加できない悔しさから、串田孫一氏の「勿来の関から湯河原まで」という文章に触発されて、ヒマラヤの代替え登山として思い立ったものだ。 私は、逆回りに湯河原から勿来の関を目指したのだが、仕事や三人の子育て、諸々の活動などに忙殺され、また、もう一つの山の目標にしていた全国の名山登りと並行してやったので、定年までに歩けたのは四分の一、奥秩父までだった。もう一つには、6年後に第二次ヒマラヤ遠征に参加できたことから、代替え登山への熱が冷めてしまったこともあり、中断してしまった。 それでも、46歳の時に「せっかく始めたのを途中でやめるのは勿体ない」と思い直し、再開した。しかし、あまり進められないうちに定年を迎えてしまった。そこから、時間ができたのを幸いに、一念発起して何とかやり遂げようと本腰を入れた。 だが、60歳を過ぎた体力では、道のない県境(奥秩父から先にたくさん出てくる)を、藪漕ぎをしたり、藪を避けて残雪期に重荷を担いで縦走することは諦めなければならなかった。それで、道のない所は峠を越え、林道や里道をたどってつなぐことにした。そして、73歳の時にやっと終着の平潟港に着いた。 歩いてきた関東外周の山地は、アルプスのようなメジャーな山地ではない。歩いていて人に会うのも数えるくらいの地味な山域だった。だが、その分、そこに暮らす人々の生活や歴史が刻まれている所だった。 そのいろいろな出会いから受けた感慨や、山での思いを随想的にまとめてみた山旅の記録が本書である。
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