俊英の力作
見る者の魂を震わさずにはおかないゴッホの作品。その核にある宗教性の内実=作品がはらむ〈聖なるもの〉の秘密、またゴッホとキリスト教および教会との関係を、書簡と作品の徹底的な分析を通して明らかにした俊英の力作。オールカラー38頁の口絵。
【目次より】
第一章 キリスト教との関わり
第一節 生い立ちおよび精神的軌跡
第二節 娼婦にイエスを見る
第三節 真のイエス理解
第四節 宗教史的・文化史的背景
第五節 《開かれた聖書のある静物》──分身
第六節 教会への愛着と嫌悪
第二章 ゴッホの「イエス」
第一節 報われぬ生涯
第二節 ゴッホの職業 イエスの職業
第三節 不幸な生涯の先に見ていたもの
第四節 ゴッホにとってのイエス
第五節 自画像といのち
第六節 《善きサマリア人》──両極の融合
第三章 ゴッホの「太陽」
第一節 《種まく人》の太陽──記号性からの逸脱
第二節 《種まく人》と《刈り入れる人》──生と死
第三節 《囲まれた麦畑と日の出》と遠近法
第四節 《精神病院の庭》──万物の融合
第五節 《ラザロの復活》とゴッホの実存
レビュー(8件)
専門家による深い洞察
ゴッホは牧師や伝道師になろうとして、挫折している。そして27歳で画家になる決意をした。画業に宗教的な要素が関係していることは想像できていたが、それがどのような形で絵に表現されているか改めて考えさせられた。 たとえば、不思議に歪んだ教会の絵ではイエスが消えて、農婦が脇道を歩いている。キリスト教が人々に救いをもたらせずに滅んでゆく姿と、教義とは無関係にたくましく生きる農婦の姿をゴッホは1枚の絵に描いたのだ。崩壊する教会は異様なオーラを放っていて、十字架上のイエスが重なってもいる。この絵の不気味な迫力が解き明かされたと感じた。 また「種まく人」と「刈り入れる人」は一般的には生と死の対比と考えられている。表面的には確かにそうだが、著者は画家が意識しないまま表現してしまった真実にまで考察を進める。全てのものが恐ろしいまでに輝き、色の洪水が画面にいのちのみなぎりをもたらしている。コッホの場合、死の主題を描いても、過剰な生命が画面に溢れかえっているのだ。芸術家の底知れぬ深みからいのちの絵が生まれてきたことが分かる。 一流の専門家にしかなしえない仕事に圧倒され、ゴッホの芸術の深淵に目を開かれた。多くの人に勧めたい名著である。
目からうろこが落ちました。
ゴッホへの興味を掻きたてられる本です。本書を 読んだことがきっかけで、次から次へとゴッホの伝 記や手紙を読んでいます。画集を開きながら、新し いゴッホ像を自分なりに考えています。 私にとっては、「悲しみ」で描かれた娼婦の姿が 衝撃的でした。イエスと重なるその姿が忘れがたく、 印象に残りました。シーンというこの女性は、ゴッ ホと別れたあと、どうなったのかも気になりました。
ゴッホの真実
ゴッホと〈聖なるもの〉は、今までにゴッホのあまり触れられてないミステリーな深いところも 掘り起こし、気品に満ちた文章で表現している。 最初から多くのカラー図版など満載で、本文とそれぞれを見比べながら読んでいくと とても理解しやすく、詳しく、丁寧に書かれているので、読んでいてわくわくした。 多くの章がある中で(種まく人)の3枚の絵がひときわ目をひいた。 それぞれの太陽、農夫、色のコントラストとか、解説と見比べるとよく理解できた。 (四輪のひまわり)もそうだった。 ~~~ひまわりの3つの切り口の切断面が手前に向けられ、どうしても見るものの眼につくよう 描かれている。~~~と続く箇所の辺りはよんでいて深い驚きを感じた。 正田倫顕氏にはぜひ次作を期待しています。 ゴッホと〈聖なるもの〉のような素晴らしい作品を出版していただきたいと願っています。
ゴッホの絵を何度も見たくなる(聖なる)本
ゴッホに真正面から向き合い新たなゴッホ像が浮かびあがります。著者自身の足で歩いて調べた事が満載で様々な角度から検証していて内容が濃く単なる解説本ではありません。宗教的なことや美術史には疎いので最初は難しそうな本という印象を持ちましたが読み進むうちにゴッホに対して抱いていた謎が少しずつ解けていくように感じました。文章と図版とを何度も見比べながらページを繰って読んでいるうちにいつのまにかその内容に引き込まれていきました。弟テオはゴッホが画家になろうと決意するに至る時からの唯一の理解者でありお互いに必要かつ欠くことのできない関係になっていきます。兄が死んだ後にテオが母親へ書いた手紙というのを何かで読みましたがその一節を読んだ時私は胸が締め付けられる思いでした。思いを共にしてきた兄ゴッホが亡くなりテオにとって大切な宝物を無くすに等しく、後々精神異常を来たし衰弱し、後を追うように半年後に病気で亡くなったそうです。テオの未亡人のヨハンナがその後、膨大な絵やテオとの手紙などの資料を公開し、生きている間には得られなかったようなとてつもない評価を後々得るのです。それが現在、私達がゴッホを知るうえでの基礎となるのです。 「ゴッホさん、ここにもあそこにもあなたの絵を見たい、知りたいと思っている人がたくさんいますよ。あなたが亡くなってから128年経ちますが、今ではあなたの絵画を観ることができるようになり、魅了されっぱなしです。どの絵も素晴らしいです!」とゴッホの耳元で言ってあげたい衝動に駆られます。亡くなる前精神病院に入り苦しんでいた時期も絵を描く環境を与えられ絵を描く傍ら模写もしていました。ドラクロア等の版画や絵画をテオから取り寄せ模写した宗教的絵画「ピエタ」「ラザロの復活」特に本カバーの「善きサマリア人」について詳しく述べられています。単なる模写ではなくゴッホ流解釈を込めた筆致で描かれています。亡くなる2,3か月前の絵とは思えない程静寂で宗教的な内面を正確に映し出しているように思えます。渾身の思いを込めて描き続けてきた絵に対していると、ゴッホにしかわからない事そしてまたゴッホにしか描きえない事更にゴッホ自身にもわかっていなかった事をも含めた気迫が私達の心を今なお揺さぶるのだと思います。著者の熱意あるゴッホ論に影響を受け、私自身の目で新たな気持ちで実物の絵画を観てみたいと心から思います。
ゴッホ研究史上空前の到達点
今までゴッホの本を読み漁ってきたが、表面だけをなぞった、分かったような分からないような解説にうんざりしていた。やれ画家の達観した境地が読み取れるだとか、やれ教会を太陽で置き換えただとか。何を読んでも心に響くことがなかった。 ところが、『ゴッホと<聖なるもの>』は違った。この本を読んで、初めて眼を開かれるような経験を味わった。著者はとにかく細部に至るまで絵を凝視している。穴のあくほど作品を見つめ、絵画と徹底的に向き合って、そこから思索を深めている。その結果、吹けば飛ぶような解説本とは異質の言葉が紡ぎ出されているのである。しかも華麗に、美しく、しなやかに。 とにかく読んでみるべきである。このように宗教的な領域までも射程に収めた、芸術の本質と深みに迫る思考は稀有だ。国際的にも空前の、極めて優れた論考であることは間違いない。著者は、若くして金字塔を打ち建てた。