日本列島には,約3万8千年前には人類が居住していた。海水面が低下した最終氷期,北海道はサハリンや千島列島およびユーラシア大陸まで繫がっていた。しかし本州とは一度も陸化せず,旧石器時代を通し津軽海峡を越えて本州に渡った人々はごくわずかであった。
本書は,北海道から本州へもたらされた細石刃石器群を中心とする製作技術と石材の分析を通じて,海峡を越えた旧石器人類が環境にどう適応したかに迫る基盤的研究である。
前半では,細石刃石器群の由来である北海道の白滝型細石刃石器群を新たに検討し,再定義を行う。細石刃核にみられる擦痕に着目し,顕微鏡による観察や細石刃の剝離実験を通してその効果を明らかにし,北海道から出土した石器群の類型化を図る。同様に,本州の同石器群についても新たに類型化と再定義を試み,本州南下後に起きた湧別技法白滝型の変容をたどって,その機能が形骸化した様相を明らかにする。さらに両地域での石器生産システムについても考察する。
後半は,近年発達著しい蛍光X線分析装置による原産地分析について,電子マイクロプローブアナライザーによるクロスチェックを行い,黒曜石製石器の原産地の変遷に光を当てる。最後に,白滝型細石刃石器群の年代特定により本州への南下時期と古環境との対応を探り,南下し拡散する過程で発生した石器製作技術や石材消費の変化を総合的にまとめる。
基礎研究を通し,海峡をはさみダイナミックに変容する旧石器人類の活動を解明した意義深い貴重な業績である。
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