タヴィストック・セミナー
: ウィルフレッド・R.ビオン/フランチェスカ・ビオン
●英国を代表する独創的分析家によるセミナー
●目次
第1セミナー 1976年6月28日 第2セミナー 1977年7月4日 第3セミナー 1977年7月5日 第4セミナー 1978年7月3日 第5セミナー 1978年7月4日 第6セミナー 1978年7月5日 第7セミナー 1979年3月27日 第8セミナー 1979年3月28日
付録A ペギーの『ジャン・コストについて』からの抜粋
付録B アンソニー・G・バネットJr. によるインタビュー
あとがき/訳者解題/索引
●ビオンは長いイギリス生活の後,71歳のときにカリフォルニアに移住したが,以後の活動はそれ以前とかなり対照的なところがあり,時に「後期ビオン」と呼ばれる。本書は,長期休暇の折に,精神分析文化を共有するイギリス人を相手に,ロンドンのタヴィストック・クリニックで行なったセミナーの記録に基づく,第一級の資料である。「後期」ビオンの特徴は心のモデルの大幅な拡張と多様化にあり,大人の中の子供どころか胎児期の両生類段階の痕跡にすら言及する。しかし想像力を働かせるのは良いとして,それが現実と結びついていなければ意味がない。理論を偏愛した時にはハードな現実が抜け落ちている。だから基本となるのは,自己抑制を伴う緻密な観察と,本当に合っているアイデア以外は執着せず捨てる態度であり,それを踏まえてビオンは,患者こそが最大の協力者であるという,精神分析の根幹に関わる指摘をしている。
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フロイトは大人の中の子供を発見し,クラインは子供の中の乳児を発見した,としばしば言われる。ビオンは,新生児どころか,胎児期の両生類段階の痕跡にすら言及する。こうしたものは,転移・逆転移の概念では捉えようがない。あくまで思弁的想像力・思弁的推論を駆使するのがその方法である。では,それの証拠や根拠になるものは何か。想像力を働かせるのは良いとして,それが現実と結びついていなければ,意味がない。ただ飼い慣らされた思考も,野生というより乱暴な思考も,的外れとなる。落とし穴は,ビオン風に倣い過ぎることにも現れる。一部のポストビオンの分析者たちのように,神秘的で誕生の予感を孕んだ理解を尊重しても,普通に見て取れることを見過ごして足元を掬われることがありうる。それはどの新しい意匠についても起こることで,個人病理を強調しようと関係を強調しようと,理論を偏愛した時には,ハードな現実が抜け落ちている。だから基本となるのは,自己抑制を伴う緻密な観察であり,本当に合っているアイデア以外は執着せず捨てる態度である。それを踏まえた上で,ビオンは精神分析の根幹に関わる指摘をしている。それは,「あれほど敵対的で否定的で非協力的に見える人物」の患者こそが,最大の協力者であることである。精神分析は分析者が何でもありの想像力を一人で飛翔させる行為ではない。必ず患者と行なわれ,彼らから手掛かりが与えられる。分析者のワイルドさが示唆に富むものなのかただ乱暴なのか,優しさが気遣いなのか優柔不断の表れなのか,それも患者が決めて,伝えて来ることである。患者からの苦情は無言でも時に厳しく,彼らは悪化したり行動化したり中断したりしうる。分析者にとって,それは貴重な現実から学ぶ機会である。但し,手遅れにならないに越したことはない。ビオンは特に明示していないが,もう一つのハードな現実は,時の流れという人間の思惑を超えたものだろう。フロイトの症例研究は,100年を経て,検証の新たな段階を迎えている。その点では,精神分析自体がどのような意味を持ち続けるかは,これからのことである。(「訳者解題」より)
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