本書の目的はプトレマイオス著『アルマゲスト』に解析的表現を与え、古代の天文学を現代に甦らせることです。 クラウディオス・プトレマイオス(c.90-c.168)はこの偉大な大著で、バビロニア天文学に遡る先人の研究成果と彼自身が行った観測と研究を基に天文学に関するあらゆる研究主題を体系化し、それらに幾何学的モデルを構築し、様々な天体現象を予測できるように夥しい数の数表を作成しました。 解読に使用した文献は次の二つの訳書です:(1) 藪内清訳『アルマゲスト』、恒星社厚生閣、(2) Ptolemy's ALMAGEST, translated by G.J.Toomer, Duckworth。しかし、これらを読んでも、計算をテキストに従ってフォローしても、アルマゲストの全容の把握に困難を覚えるのは非力な筆者のみではないと思います。そこで取り扱われている主題を一つ一つ確認し、問題を解析的に解き、計算結果をアルマゲストと比較するという手法で解読を進めました。ですから、本書はアルマゲストの忠実な注釈書ではなく、筆者の演習ノートに過ぎません。本書では通常の三角法および球面三角法の諸公式を多用し、微分とベクトルも使っていますので、アルマゲストの取り扱いとは異なります。 解読で第一に実感したことは、アルマゲストは決して幾何学の本なのではなく、代数計算に満たされた書物だということです。古代ギリシャ文明が誇る幾何学はモデルの構築と計算手順に活用されているだけであり、アルマゲストの本質は膨大な代数計算にあります。古代ギリシャ人にとってこの代数計算はバビロニア天文学から受け継いだ新知識であり、古代ギリシャ人が自然科学で代数計算を駆使した最初で最後の、そして唯一の書物がアルマゲストだったのです。 アルマゲストは巻子本であり、十三巻から構成されていますが、本書では北天の恒星を扱った第7巻と南天の恒星を扱った第8巻を一つの章にまとめ、12章構成としました。 アルマゲストは時代を越えた最も偉大な自然科学書です。プトレマイオスがアルマゲストで行った最大の功績は、自然の観察あるいは実験を基にモデルを構築し、数学を用いて定量的に現象を再現するとともに、モデルのさらなる改良をはかるという自然科学の基本原理を確立したことです。更に言うなら、彼は宇宙に神話に代わる科学的描像を提示したのです。コペルニクスの『回転論』はアルマゲストの形式に従い、ケプラーも『新天文学』でこの基本原理を火星に適用しました。ニュートンがアルマゲストあるいは回転論を読んでいたのかどうか分かりませんが、アノマリに運動の本質が速度の変化であることを直ちに見抜いたはずです。当然、ニュートンが参照したはずの『新天文学』でケプラーが解析したのも本質的には火星のアノマリであり、ケプラーは惑星に作用する太陽の引力に相当する駆動霊について思索を繰り返しています。追記:奥付けが第2版となっていますが、初版の印刷が思わしくなく印刷をやり直した結果、版が一つ上がったためです。
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