「悲劇的なもの」への憧憬と渇仰。それは三島由紀夫にとって存在の深部から湧出する抑えがたい欲動であった。自己を衝き動かす「前意味論的欲動」は、彼の文学を研ぎ澄ませ昇華させると同時に、彼自身を血と死へ接近させてゆく。衝撃的な自決から半世紀。身を挺して生涯を完結させた作家の精神と作品の深奥に分け入る評伝。
はじめに
序 章 前意味論的欲動
一 悲劇的なものへの憧憬
二 本心のない作家
三 ジャック・ラカンの「享楽」
四 生涯の輪郭
第一章 禁欲の楽園ーー幼少年期
一 生まれた家
二 学習院の教育
三 ことばの城
第二章 乱世に貫く美意識ーー二十歳前後
一 戦争の仕度
二 初恋の女性
三 韜晦する文学
第三章 死の領域に残す遺書ーー二十代、三十一歳まで
一 『仮面の告白』の決意
二 生き辛さの嘆き
三 世界旅行での濫費
四 『金閣寺』の達成と誤解
第四章 特殊性を超えてーー三十代の活動
一 『鏡子の家』の失敗
二 理念を生きる人たち
三 泥臭い生き方
四 シアトリカルな演劇
第五章 文武両道の切っ先ーー四十代の始末
一 聖なる人間
二 「英霊の声」の天皇
三 「文化防衛論」の意図
四 「ゾルレンとしての天皇」
終 章 欲動の完結
一 『豊饒の海』の底
二 一九七〇年十一月二十五日の最期
三 終わらない三島由紀夫
文献解題
略年譜
おわりに
レビュー(13件)
三島由紀夫の複雑さを描いている良書
三島由紀夫という、とても複雑で多面性を持つ人物を、内なる欲動という視点から客観的に描いている。ただの興味本位ではなく、確かな取材に基づく、筆者の視点が明確。後書きで筆者が記しているように、三島由紀夫自身を描ききる事は難しく、ページ数が足りない為、少し物足りない点も有ったけれど、新書としては充分。同じ筆者が、この本では書き足りなかった分を今後、書いて欲しい。三島由紀夫のスキャンダラスにとらわれていない所も良い。三島由紀夫の深い孤独と様々な矛盾を抱えていた痛みが伝わってきました。