殺された少年を取り巻く人々の嘆き、戸惑い、そして諦め
厳寒の街は人々の心までも凍らせてしまったのか。
ミステリ界の帝王が現代社会の問題に
メスを入れた、シリーズ第5弾
CWAインターナショナルダガー最終候補作
男の子の年齢は十歳前後。地面にうつ伏せになり、体の下の血は凍りはじめていた。アイスランド人の父とタイ人の母の間に生まれた男の子は、両親の離婚後母親と兄と一緒にレイキャヴィクのこの界隈に越してきた。人種差別からくる殺人が疑われ、エーレンデュルら捜査陣は、男の子が住んでいたアパートや通っていた学校を中心に捜査を始める。世界のミステリ界をリードする著者が現代社会の問題にメスを入れた、シリーズ第5弾文庫化。
レビュー(7件)
じっくりと読ませる
本作では殺人事件が起こりますが、どうやら主眼は犯人探しではないようです。 「殺人」やそれにまつわる「喪失」が、どのような波紋を描いて広がっていくか、あるいは周囲の人々をどのように波立たせていくかを描いた作品です。 移民問題や人種差別を扱った作品は、通り一遍であったり、立場によって一方的なストーリーラインになりがちで心に響かないものが多いですが、本作は違いました。 それは移民の殺人事件を発端としつつも、上記で述べたような人間の普遍的な部分に焦点をあてているからと思います。たとえば幼い時分に「殺人」という不穏な空気に初めて接した、あるいは弟を喪った「喪失」等々・・・。 繰り返しになりますが、犯人探しという点ではそれほど凝った作品ではありません。 しかし、事件にかかわった人々の深淵が次々と垣間見え、非常に読みごたえがありました。 たとえばあなたの隣にいて、長年仕事をしてきた人のことも、本当は何も知らないのかもしれませんよ。あなたが知ろうとしなければ・・・。 じっくりと読ませる作品です。