2022年5月内容訂正。本書は日本で初めての王昌齢全詩訳注です。盛唐期を代表する詩人の一人、王昌齢は李白と並び称される七言絶句の名手でした。更に彼は他の詩人と異なり、作詩、作文のための文学理論書の著述が有り、その著書「詩格」を日本に始めて持ち帰ったのが弘法大師空海です。空海の「文鏡秘府論」は王昌齢の詩格を参考にした所が多々あります。このように日本人と王昌齢の付き合いは長く、文学理論書のみならず彼の漢詩は日本人に読み継がれてきました。日本人の千年以上にも続く王昌齢詩鑑賞の歴史の中で、本書が初めての全訳注です。では、王昌齢の七絶で最も人口に膾炙した「芙蓉楼(ふようろう)にて辛漸(しんぜん)を送る」の二首のうちの一首を本書から抜粋して紹介します。寒雨連天夜入呉 寒(かん)雨(う) 江に連(つらな)りて 夜(よる)呉に入る平明送客楚山孤 平明 客を送れば 楚山孤なり 洛陽親友如相問 洛陽の親友 如(も)し相い問わば一片冰心在玉壺 一片の冰心(ひょうしん) 玉(ぎょく)壺(こ)に在りと 寒々とした雨が長江に沿って降り、その雨と共に私は呉の国に入った。明け方に旅立つ君を見送れば、楚の山がポツンと聳(そび)えている。洛陽の身内の者や友だちに私のことを尋ねられたら、「彼は氷のような清く澄んだ心が、玉壺の中に今もキラキラ輝いている」と答えてくれたまえ。七言絶句。押韻は「呉・孤・壺」の上平声七虞。○芙蓉楼 潤州城西北の角に在り長江に臨んでいた。現在の江蘇省鎮江県。○辛漸 未詳。○親友 親戚と朋友。○相 互いにではなく、受け身を意味する。○冰心 氷のように清らかな心。○玉壺 高潔な気持ち、度量の喩え。全訳注という作業は苦しく困難を伴います。必ず理解できない詩が幾つも有り、また面白くない詩もあります。だから多くの研究者は敬遠してきました。日本の中国文学、中国学は世界のトップレベルであり、その歴史も長いにも関わらず、李白や杜甫でさえ、その全ての詩の訳注はありませんでした。まして漢詩が最高に開花した盛唐期の詩人たちの詩の訳は微々たるものです。本書はそんな日本の状況の中で書かれた日本初の王昌齢全詩訳注です。
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