保険数学は、生命保険契約に係る保険料や負債の計算式を与える理論として、長きにわたり生命保険業に係る会計と監督行政の土台となってきた。しかし、今日的には、いわゆる市場整合性の視点を欠く点で、生命保険の数理としては不十分な枠組みとなっている。その意味で、この伝統的な保険数学をここでは古典論と呼ぶ。
保険契約に係る負債の市場整合的評価(経済価値評価)は、保険会社のリスク管理ないし ‘Value Management’ において本質的に重要である。しかし、保険会社の数理専門職を目指す者は、保険数学の古典論のみでは、経済価値評価を理解することはできない。本書は、今日的な生命保険数理への入門書として、以下の点を目指したものである。
1)古典論の要点を経済価値論への接続に留意しつつ述べる
2)保険契約の経済価値評価の概要と必要性を述べる
3)経済価値評価を理解する上で必要なファイナンス論の基礎をまとめる
4)経済価値評価の典型例(オプションと保証の価値の評価)について計算手法を概観する
主な特色は、具体的には、以下のとおりである。
生命保険契約の価格・負債を余命を確率変数として定式化する/古典論は、cashflow の現在価値をその年限によらず固定金利で評価するが、市中金利(イールドカーブ)に整合的な価値評価についても十分言及する/いわゆる収支相当原則を前提とせずに保険契約負債を定式化することで、古典論を再解釈し、経済価値評価に繋げる/多重脱退モデルでは、絶対脱退率を相対脱退率から自然な形で導く/ファイナンス論の準備を兼ねて、Hattendorf の定理の証明を確率過程の観点から述べる/生保負債の金利リスクの大きさを概算し、負債の経済価値評価の重要性を述べる/経済価値負債が実務的に如何に構成されるかをMCEV Principles に沿って述べる/ERM的な観点から保険料の収益性評価の要点を述べる/市場整合的評価の典型として、変額保険の最低保証の負債評価を経路依存的なオプション評価の応用として述べる。
生命保険の数理業務に従事しようとするひとが、古典論の解釈と、経済価値評価に係る基礎的な概念を知る上で何がしかの参考になれば幸いである。
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