「脂肪」は、時代や地域によってさまざまに解釈されてきた。裕福さ・豊満さ・偉大さ、また農業においては豊作や土地の肥沃さの象徴とされた一方で、脂肪によってもたらされる「肥満」は怠惰や能力の低さ、不健康・野蛮などその時代の誤った知識や偏見でもってネガティブな見方をされることも長く続いた。本書は歴史・文化・宗教・言語学など幅広い観点から、肥満についての人々のとらえ方がどのように変遷し、またその理由は何かを探り、そのことが近現代のダイエットブームに続く人々の「スリムな身体」信奉へとつながっていると述べる。これは人類の嫌悪と偏見の歴史でもあり、そのような人々の見方は今もなお息づいていることに気づかされる。豊富な史料を用いて丁寧に編んだ「脂肪」についての文化誌であり、同時に人類の固定観念のルーツを「脂肪」というテーマでもってひもといた本書は、類のないユニークな研究書であり、非常に興味深い文化誌の教養読み物といえる。
第1章 生命の源ーー脂肪をめぐる考察
第2章 肥沃な曖昧性ーー農業的なイマジネーション
第3章 古代の食欲ーー贅沢と柔らかさの地理学
第4章 キリスト教徒の肥満ーー腹とその下にあるもの
第5章 ノーブルな脂肪?--中世の肥満
第6章「地」の脂肪 --なぜよい雄鶏は太っていないのか
第7章 スパルタの幻影ーーユートピア国家と近代性の課題
第8章 油脂(グリース)と優雅さ(グレース)--脂肪を待ち受ける新たな試練
第9章 野蛮な欲望ーー「原始的な」肥満と「文明的な」痩身
第10章 肉体のユートピアーー超越という近代の夢
結び 清浄と軽さ、そして歴史の重さ
参考文献/索引
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