●痴呆老人は何を見,何を思い,何を感じているのだろうか。治療・ケアの現場に立って20年の著者による,実学としての臨床精神病理。痴呆に共通する不自由を生き,老いをゆく人たち自身の表現を読み解くことで,彼ら一人ひとりの生き方,心的世界を解き明かし,老いの心に添った治療・ケアへと導く。
■解説
痴呆老人からみた世界はどのよろなものなのだろうか。彼らは何を見,何を思い,どう感じているのだろうか。そして,彼らはどのような不自由を生きているのだろうか。筆者が痴呆老人の治療・ケアの現場に立つようになって20年近くになるが,この問,考え続けてきたのはこのことであった。 痴呆老人は従来,処遇や研究の対象ではあっても,主語として自らを表現し,自らの人生を選択する主体として現れることがあまりに少なかった。そこで,おそらくわが国ではじめての,痴呆の精神病理を主題にした書を上梓することにした。とはいっても,本書は抽象性の高い精神病理学書ではない。あくまで痴呆老人の精神医学的治療,ケアに役立てうる実学としての臨床精神病理の書である。痴呆を生き,老いをゆく人たち白身の表現を読み解くことで,痴呆に共通する不自由を生きる一人ひとりの痴呆老人の生き方,彼らの心的世界を解き明かす道を探り,痴呆老人の治療・ケアを理に適った,そして彼らの心に添ったものにしたい,と考えているのである(「まえがき」より)
●目次
まえがき
第一章 予備的討論
中核症状と周辺症状/方法としての基底障害理論/問題の所在と方法の提示
第二章 痴呆にみられる精神病様状態ーー自験例の調査から
問題意識/調査結果/従来の報告との比較
第三章 痴呆にみられる妄想の症候論
痴呆にみられる妄想の特徴/妄想と作話/痴呆にみられる妄想から作話、記憶錯誤へのスペクトラム/もの盗られ妄想の病態分析
第四章 もの盗られ妄想の精神力動
対象の選択と課題の提示/典型例の提示/もの盗られ妄想者との出会い/治療の展開と精神力動の発見/もの盗られ妄想の心理構造/二つの亜型/喪失感を生むもの/攻撃性を生むもの/病前性格/もの盗られという主題の選択ーーまとめにかえて/残された課題
第五章 痴呆の構造再考
周辺症状の生成と痴呆の構造/室伏の痴呆構造論/痴呆のはじまり/記憶障害/見当識障害/判断の障害と前頭葉症候群/実行機能の障害/初期からみられる失語・失認・失行/まとめ
第六章 もの盗られ妄想の生成
“ゆらぎ”ということ/痴呆性老人の脆弱性/初期痴呆を生きる/破綻/新たな生き方としてのもの盗られ妄想の発見/責任の外在化を可能にするもの/若干の補遺
第七章 もの盗られ妄想の治療
基本視点/治療が要請されるとき/ストーリーを読む/責任の所在追求からの開放/喪失感を受けとめる/攻撃性を受けとめる/薬物療法/経過と予後
第八章 アルツハイマー型痴呆と脳血管性痴呆
馴染みの仲間/人格の尖鋭化/個別性と共同性
終章 精神病理学的方法の意味と限界
精神病理学的方法の意味/「行く」「帰る」の精神病理/徘徊の精神病理/精神病理学的方法の限界
あとがき
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