古文の世界が身近に感じる本
早く知りたかった! 語源から知る古文入門書。
本書は、言葉の語源や言葉が、古典文学でどのように使われてきたかがわかる語彙集だ。知らない言葉を調べた際、意味が載っていれば、言葉の意味を「知る」もしくは「覚え」られるだろう。そこに語源や文例などがしっかりと掲載されていれば、具体的な使われ方がわかり「理解」へとつながる。本書は後者のタイプの本だ。古文が好きな人も、そうではない人もスッと理解しやすい古語入門書である。
本書の内容は、大きく「本集」と「別集」に分かれている。
本集には、基本語彙313語が掲載され、言葉一つひとつに意味や、語源などの解説、古典文学から引用した文例が記されている。
別集は、「古典の四季」「宮廷・院・官職」そして、「慣用句」などが掲載。別集は言葉と意味のみのシンプルな内容なので、わからない言葉があったときに調べるのに便利だ。
本集がこの本のメインとなる。ここからは、本集の内容について触れていこう。
名文が引用されているため、情景が浮かぶ
本集に記載されている文例には、『雨月物語』『源氏物語』『枕草子』など、古典文学の名作が引用されている。引用文のあとには、現代語訳も入っている点がポイントだ。
古文が苦手な人間からすると、たとえ知っている古典文学の一部分が引用されていたとしても、読むのが苦痛だ。理解した気になって読み進める不誠実さに嫌気がさしてくる人もいるだろう。
その点、本書は現代語訳がついているうえ、該当する言葉が太字になっている。時間に余裕があれば、原文と照らし合わせて1語1句を追って読みたくなる。そうやって古文に触れる範囲を広げていくことで、語彙の蓄積だけではなく古文への理解につながる気がした。
とくに読んだことのある文例の場合、情景が目の前に浮かび物語のキャラクターに思いをはせる時間さえ生まれる。しかも文例のセレクトが絶妙な点も見逃せない。
「をとこ(男)」の文例では、源氏物語の「葵」からの引用文の横に、源氏物語の「夕顔」からの引用文がならぶ。
葵の巻といえば、プレイボーイである光源氏の正妻・葵の上と、光源氏の愛人である六条御息所が遭遇するシーンで有名だ。葵の上の一行が、六条御息所が乗っている物見車と知りながら、大衆の面前で無礼な扱いをして、先に場所取りをしていた六条御息所を別の場所に押しのけてしまうのだ。その後、葵の上は懐妊し男の子を出産するが、のちに六条御息所の生き霊に殺されてしまう。
一方、夕顔の巻に出てくる、光源氏の愛人・夕顔も物の怪によってこの世を去る。六条御息所の生き霊とは書かれていないものの、そのように思わせる内容となっている。他にも、光源氏の愛人名が複数出現するページもある。なかなかない眺めである。
本書は、「言葉を知る」とは違う角度からも楽しめる。本書で古語の奥深さを知り、気になる古典文学を読んでみるきっかけになるかもしれない。もし古典文学が読みたくなったら、読後、もう1度本書を手に取ってみてほしい。もしかしたらまた新しい発見があるかもしれない。
楽しみ方が広がる、古語入門書
本書は、読む人によって重点的に楽しみたい箇所が、異なるだろう。言葉の意味を重点的に知りたいと思う人もいれば、現代語訳と原文の対比に時間を費やす人もいるかもしれない。そうやって自分なりの「おもしろさ」を見つけることが、古文への興味につながる。
古文入門書というと文法の解説がたくさん載っていそうだが、本書はそういった部類の本ではない。むしろそれが知りたい人は、違う本を探すべきだ。
本書は、ただただ真摯に言葉と向き合っている。難しい内容は苦手だが、古典文学に触れてみたい。知識はないが古文に興味がある……という人にとって、とても重宝する本になるだろう。
気になる方は、ぜひ実際に読んでみてはいかがだろうか。古文への興味が広がるかもしれない。
文・夏野久万
[著者]
緒方 惟章(おがた これあき)
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