この戯曲集は三つの戯曲からなっており、それぞれフェルメール、モーツァルト、
ベートーヴェンの作品を巡る物語です。
三人は現代において画家、作曲家として名声を確立している芸術家であり、
彼らの作品には普遍的な価値が認められています。
この三つの物語はその「価値」の誕生物語であり、「価値」の普遍性を問う物語です。
第一作『フェルメール・ブルー』は17世紀、オランダ絵画黄金時代の画家フェルメー
ルの作品を贋作した、20世紀に生きたオランダ人画家ファン・メーヘレンの物語です。
批評家を欺き、ナチス・ドイツをも欺いた実在の贋作画家は、ナチスにフェルメール作品を売り渡したとして戦犯裁判にかけられます。
贋作であることを白状すれば、永遠の居場所を美術館の壁に定められた自作が贋作としてゴミ箱へ、贋作を隠し通せば、自作は名画の誉れを永遠のものとするが売国奴として死刑は免れない…。
作品の名誉と自らの命を天秤にかけた画家の人生を通して、絵画の「価値」を問います。
第二作『革命への行進曲』は18世紀、オーストリアの作曲家モーツァルトのオペラ
『フィガロの結婚』の上演許可を巡る、実在した宮廷検閲官ヘーゲリンを主人公とし
て描く物語です。
フランスの作家ボーマルシェの戯曲『フィガロの結婚』は、ルイ16世により何度も上演
禁止を命じられ、4年間もの改訂に次ぐ改訂により上演にこぎ着けました。
ですがオペラ版は、ウィーンのヨーゼフ二世のもと大きな混乱はなく上演は許可され、
今日まで世界中の歌劇場で上演されています。
オペラ『フィガロの結婚』初演までの道のりは、史実としては台本作家ダ・ポンテの手記は残っているものの、正確な過程は分かっていません。
本作は18世紀の検閲の歴史を踏まえた上で、原作戯曲とオペラ台本の違いからモーツァルトとダ・ポンテがオペラ化に際し検閲を逃れるために何をどう企み、何を描きたかったのかを読み解きます。
その上でヘーゲリンが検閲官としての職務と作品の「価値」の間でどのように揺れ、どのように上演許可を与えるに至ったのかを描きます。
第三作『ベートーヴェン第10交響曲』は、18,19世紀のドイツの作曲家ベートーヴェンの決して存在しない『第10交響曲』を巡る、ベートーヴェンと無給の秘書シンドラーの物語です。
ベートーヴェンは『第10交響曲』をどのように構想していたのでしょうか。
そして、聴力を完全に失った最晩年のベートーヴェンに尽くしたシンドラーは、そこにどのように関わっていたのでしょうか。
発表されていたら当時も現在も、誰もが「価値」を認めるであろう傑作の運命を描きます。
レビュー(0件)