今から八十年ほど前まで、日本には、戦争(植民地)という特殊な現実があった。この現実の奥に、作家たちは何が見えたのか。それを明らかにしたくて、作品に向かった。小説家の中島敦、歌人の會津八一、前田透。中でも、前田透は、日本占領下にあったポルトガル領チモールに駐留し、理想国家建設を夢み、チモールのため、命がけで働いた人。 戦争によって奪われた、かけがえない夢が世界中にいったいどれほどあったか。戦時下の国民を覆ったニヒリズム(重いウツであろうか)の底に、実は激しい感情が隠れていた。ファナティックな戦争賛美ばかりのさ中、静かに、国の平安や人の無事を祈る歌を詠んだ、勇気ある人がこの国にいた。こうしたことを、作品は教えてくれた。 「『山光集』の會津八一」は、第62回群像新人評論賞で、予選通過させていただいた、私にとって初めての評論。「前田透のチモールーわがベネチア客死ー」「中島敦『北方行』に描かれた「頽廃」-自然な憎悪と怨恨ー」は、ともに「文藝研究」(日本文藝研究会・東北大学)に載ったものを、書き改めた。 ウクライナでの戦争から目を背けるわけにいかない私たちに、これらの作品は様々な示唆を与え、平和とは何か考えさせてくれると思う。
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