「もう一つの世界がこの下にある。太陽と水色の橋、そして黄金の枯れ草だ。直視しちゃいけないよ。これは水溜りに映った太陽じゃない。もう一つの本物の太陽だ」(本文より)*現代を舞台に主人公たちは「その他の物語」を生きる。万引きする女、カッパの総理大臣、虹と夜、無職の男、赤ダニ、嘘と真実を消す女、ウサギとサンタクロース、王様と観覧車、可愛い女たち、エゴの花と青い花、死者、カマキリ男と小説家の戦い、太陽の光。名のない男が、焼野原に言葉の塔を打ち立てるのに、十年の歳月が流れた。男が、透明な塔で、深い黄金と高い星に梯子をかけたとき、そこに見えてきたのは、不思議な光だった。傑作「クリスマスに降る夜」を含む21編の短編小説を収録(2003-2015)。外的世界と内的世界が円を為す詩的物語群。解説と著者あとがきを付す。*「高橋君と一緒で、両方よ、きっと」「両方?」どういう意味なのか分からなかった。美咲は私のまだ濡れている髪を撫でた。私は美咲の顔を見た。その顔は、小学生の頃に用事もなく優しく手を繋いでくれた女の子達の顔に似ていた。少女が大人になるのではなく、大人だと思っていた女達は皆、「大人」に振舞わざるを得なくなった少女達なのか、というような考えが私の頭を覆った。「両方とも消してあげる」と美咲は言い、束ねていた髪をほどいて首を振った。(本文より)「王妃の意識構造も類似したものと想定出来る。佐藤、今、お前がいる部屋の下はどうなっているんだ?地下室はあるのか」「それ以上は、教科書的にしか俺も知らない。地下室もあるかもしれないし、ずっと深い所には、地下水が流れていると聞いたことがある」(本文より)彼は蛇を止めたかった、しかし、蛇は、今では、彼と共に落下しており、彼が蛇に追いつくことはなく、止めることもできない、むしろ、蛇以外には、この世界に頼るべきものはなかった。「君には大切なものはあるか?」と黒ウサギの声が聞こえた。「質問するな」と彼は言った。「目を開けてごらんよ。怖いのか?」(本文より)舟は、地底の川を流れていく。わたしたちは地上に立つ、天上で星が流れる。わたしは何も知らない。何かを知る。それは、地上に小さな杭を打ち込むことなんだわ、杭はすぐに滅びる。地底の川、舟が流されていく。(本文より)*表紙絵「人生の三段階」挿絵「接吻」グスタフ・クリムト
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