本書では、これまでの実証研究でありがちな仮説の検証で終始するものではなく、言い換えれば、これまでの会計情報の情報効果を中心とする実証研究は、方法論的な考察を行うならば、仮説演繹法でなく帰納法に基づいていると考えられる点を問題であると考える。そこで本書では、多くの仮説の検証で得られた実証結果から全称命題を形成する努力をし、その全称命題から演繹的に推論することにより体系を形成し、無矛盾の理論体系を展開し、より現実的な法則を導くことを目指している。換言すれば、本書の方法論的基礎は帰納的方法ではなく、仮説演繹法であり、それに基づいて理論を展開することこそが課題であると考えている。この意味で、従来のいわゆる実証理論とは一線を画するものとすることが目的である。だが、帰納的方法が誤りであり、それを仮説演繹法に代えることを主張し得るのではない。帰納的方法と仮説演繹法は、説明・予測の理論にとって車の両輪の存在であることに注意しなければならない。両者にはフィードバック関係が存在するといってよいであろう。仮説の検証によって得られた実証結果をこれまでの会計理論で説明できない場合に、新たな理論を構築して、その実証結果を説明し予測することである。かような研究は、実証研究と本来、相互補完の関係にあると思われるが、これまでの日本における会計研究では、あまり試みられてこなかった。本書も発展途上にあるものであり、その意味で、未だに初歩的な問題提起をした書であるということもできるものの、そのような理論の研究が看過されていいということにはならない。本書のオリジナリティはまさにこの点にあるということができる。
第1章「資源配分機能と市場効率性」では、これまで行われてきた実証研究をサーベイし、セミ・ストロング・フォームで効率的市場の場合、既存の会計利益情報ではその有用性が限られたものである可能性を指摘する。第2章「会計情報の公開開示の簡素化と拡大化」では、アメリカを中心に、どのような会計情報が簡素化され、一方で拡大化されるのか、効率的市場仮説から考察する。第3章「内部情報の有用性」では、セミ・ストロング・フォームで効率的市場では投資者に有用な情報の一つとして内部情報を取り上げ考察する。第4章「経営者予測利益情報の有用性」では、内部情報を含む会計情報として経営者利益予測情報を取り上げ、その有用性の実証研究をサーベイし、そこでの事実認識のもとに経営者利益予測情報の有用性を考察する。第5章「純利益とその構成要素の有用性」では、経営者利益予測情報の「利益」として、純利益を取り上げ、事象理論から考察する。第6章「包括利益の有用性」では、純利益と包括利益の相対的情報内容の実証研究をサーベイし、そこでの事実認識のもとに投資者に有用な「利益」を指摘する。第7章「事象理論と取得原価会計情報」では、純利益に代わる利益概念として包括利益を考えた場合、純利益に代表される実現利益(取得原価会計情報)の有用性はどこにあるのかウェブベース会計情報として事象理論から考察する。
レビュー(0件)