遠藤周作とフランツ・ファノンは、著作が英仏語で刊行されることで世界文学システムに組み込まれている国際的な著者である。この二人には共通点が多い。遠藤は1923年生、ファノンは1925年生とほぼ同世代である。また、カトリックであり、植民地出身である(遠藤は東京生まれで満州の大連出身、ファノンはカリブ海のマルチニック島出身)。また、同時期にフランスのリヨンで学生生活を送り、白人の本国人から有色人差別を受ける一方で、白人女性と恋愛している。そして何よりも、人種主義を初期の重要な主題としているのである。遠藤は『白い人・黄色い人』、ファノンは『黒い皮膚・白い仮面』で出発している。このようなことから、本書では、『文化と帝国主義』のE・サイードを理論的支えに日仏両国のコロニアル・コンテクストを明確化しつつ、両者の思想的比較を行った。 両者の前半生を再構成するなかで、日本語世界における先行研究の誤りを幾つか訂正した。また、J・P・サルトルに対する両者の姿勢、特に「黒いオルフェ」読解を比較考察することで、両者の思想的相違を明らかにした。遠藤が有色人種としてのネグリチュードの自覚(日本人としての肯定的自己認識)に至り、それを自らの創作活動の思想的根拠に据えたのと対照的に、ファノンはネグリチュードの乗り越えを図ったことが相違点である。 「黒いオルフェ」に先行する「ユダヤ人問題の考察」にまで検討の射程を拡大し得なかったため、論を尽くしたとはいえないが、E・ムニエ、G・マルセルに思想的親近感を抱き、「現代」ではなく「エスプリ」を読んでいた遠藤は、サルトルを、いわば「仮想敵」として参照していたと指摘した。 フランス本国を去った二人の軌跡は鮮やかな対照を描いた。遠藤は芸術家を革命家と対比的な存在として捉え、「為す」ことではなく「創る」ことこそ自分の仕事と自覚したが、ファノンはアルジェリアの独立運動に身を投じ、「為す」ことを通じて革命家として生きようとしたのである。
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