島尾敏雄の代表作『死の棘』の世界は、島尾敏雄のみならず大平ミホ(後の島尾ミホ)の自己形成の足跡を明らかにすることによってより深く読み解かれると思われる。そのためには大平ミホの思春期を明らかにすることが欠かせない。だが島尾ミホは、島尾敏雄との出会いと加計呂麻島での幼少期については多くを語っているが、思春期・東京時代(昭和七年から昭和一三年)についてはほとんど語っていない。そのため、彼女の思春期については不明なことが多い。そこで本書では、大平ミホの東京時代に焦点を当て、大平ミホが五年間通った日出高等女学校と卒業後一年半ほど勤めた勤務先での彼女の体験を探った。この中で、日出高等女学校の校長小林芳次郎と妻雛子の生涯や教育観などを明らかにし、仏教主義に立つ日出高等女学校での学校生活が大平ミホにとってどのようなものだったかを推察した。また、大平ミホの勤務先上司であった北島君三の人物像と勤務先の職場環境などを明らかにした。本書は、梯久美子の労作『狂うひと「死の棘」の妻・島尾ミホ』でも触れられていない諸点を明らかにし、大平ミホの東京時代の意味を探ったものである。
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