本書は、日本語(和語)で書かれているという原則を見失い、誤読し、誤って解釈されてきた『古事記』の表記原理について、幅広く検証を行った結果の報告です。その結果、『古事記』は解釈以前の状態にあり、まず、表記を解読することから始めなければならないことが分かりました。『古事記』は全文、漢字で記されていますが決して漢語・漢文ではなく、変体漢文と呼ぶべきでもありません。和語・和文の表記するために、漢字(漢語、漢文措辞を含む)を使った「漢字文」、すなわち、「漢字テキスト」なのです。また、その固有名詞(神名・人名)は、すべて和語としての語構成・構造をもっております。それを、現在まで漢文の教養・知識で扱い、解釈してきたのです。『古事記』の固有名詞(神名・人名)は、筆者が「古事記假名」と名付けた「万葉仮名」よりも古い、年代幅の広い「假名」によって、表記されています。当然、中国漢字音韻の上古前期・後期音、中古前期音という音韻の変遷が、「假名」の表す音価に色濃く反映されています。その発見により、和語の語構成・構造が明確に析出され、連体助詞が重複、重層的に表記されていることもわかりました。いわゆる膠着語としての日本語の特長が、此処にも如実に表れています。わが愛する美しい母語・日本語は、現代のカタカナ語、江戸から明治初期にかけての漢字語の氾濫によってのみではなく、史人たちによって『古事記』が漢字テキストとして成書化される過程で、すでに書記自体が乱れ、文化断絶が生じていたことも、読み進める中で実感されることでしょう。
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