「江戸の芝居」を見ることができないとすれば、いま私たちが見ているものは何か。<br><br>現代に生きる私たちが歌舞伎を見る空間とは明治以降に形作られたそれ以外にはあり得ず、そこで演じられる芝居も、そうした空間で近代に形作られてきたものでしかあり得ない。では「明治の芝居」とは何なのか。<br><br>本書は日本の歴史上屈指の激動の時代の、幕末・明治期の歌舞伎の全貌を、あらためて捉えなおすべく編まれた。当時「正統」派が読みなおしていた古典作品の様相や、「正統」派だけでなく、「傍流」とされてきた上方劇壇、今日では忘れられた存在となっている戦争劇や災害劇にも目を向け、今日の私たちが見ている歌舞伎との新たなつながりを見い出す。<br><br>【……だが、「明治の芝居」にしても、そうした、「江戸時代の芝居」の次に現れて、今日の歌舞伎につながるもの、というような図式でのみ捉えられるものではないのではないか。団十郎、菊五郎が今日の歌舞伎の基礎を築いたことも、彼らの存在が従来の演劇史の中で大きな位置を占めていることもわかるが、では、彼らの演じた芝居は同時代の他の人々のそれと何が違ったのか。あるいは、彼
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