○その1:我が国における光通信時代の幕開け NTTは我が国最初の光ファイバ伝送システムとして,1981年12月にグレーデッド(GI)型ファイバを用いたシステム、83年12月に単一モード(SM)ファイバを用いたシステムを商用化し、光ファイバ伝送システムに対する歴史的マイルストーンを築いた。 これは1970年頃から欧米で活発化した光伝送システムの実用化競争に対して、我が国も少し遅れて実用化への取り組みが本格化し、NTTにおいても全社挙げてのプロジェクトを設置して研究所を中心に開発を推進した。当初欧米に対して後発だった我が国も、関連組織の必死の努力により欧米に追い付き、半導体レーザと光ファイバ技術においては世界を凌駕するレベルに達した。 筆者は1976年初頭から、NTT研究所において光ファイバ伝送線路の実用化に対する実行上の責任者に任命され、電線メーカの協力を得て約8年間実際に研究開発を主導した。相次ぐ欧米における実用化への動きに対抗して、超過密な線表に基づいて1978~82年に3回の現場試験を実施し全ての試験で良好な結果を得たことにより、上記の商用化に貢献できた。この物語ではその過程を詳細に述べ、得られた成果をまとめた。 特に光ファイバ構造の標準化は世界を先導し、GI型とSMファイバの両方について我が国の提案がそのままCCITTにおける世界標準に登録された。 また光ケーブル、融着接続装置、測定装置類の実用化とファイバ及び接続部の信頼性を確立した。更に筆者の後継者がこれらの技術を世界に誇れる製品として結実させた。更に関連研究室の成果であるが、VADファイバ製造技術の長足な進展により、大容量・低価格な伝送システムが実現し、現在の情報化社会を支えている。○その2:水素による光ファイバ損失増ー最悪のシナリオを際どく回避ー 上述の通り、NTTは1981年12月に我が国初めての光ファイバ伝送システムを商用化し、光伝送システムは順調に発展するはずであった。その矢先の82年6月に2年前に現場に布設した実験線路の光ファイバで、信じられない損失増が長波長帯で生じているのを発見した。この損失は常温においても時間と共に増加し、このままでは光ファイバ伝送システムは全く使い物にならず、折角の技術がお蔵入りすることが避けられない状況となった。 本現象を発見した筆者の研究室では、全力を挙げてその原因究明と対策の確立に取り組んだ。数か月の検討の末、原因が水素分子がファイバに侵入しダングリングボンドと結合してOH基が生じるためであることを突き止めた。これに基づきファイバ中の欠陥を減少させ、ファイバに侵入する水素の発生を極限まで抑えることにより、20年間の使用を保証することができた。本成果を国際会議で発表し、世界的なプライオリティを確保することができたが、世界中で本現象が発見され大騒ぎになっていることも知った。 1年半に及ぶ研究成果を事業部門に報告し、ぎりぎりのタイミングで事業導入を遅滞なく進めることができた。
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