生態学者・伊藤嘉昭伝 もっとも基礎的なことがもっとも役に立つ
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本書は生態学界の「革命児」伊藤嘉昭博士(1930-2015)の55人の証言による伝記である。この一冊で戦後日本の生態学の表裏の歴史が眺望できる科学史資料となっている。東京農林専門学校卒で「大学を出ていない」伊藤は,日本の生態学の近代化と国際化に貢献した戦後最大の立役者である。沢山の教科書を書き,沢山の国内外の研究者と交流し,沢山の弟子を育てた。その指導方針は「英語で国際誌に論文を書き続けよ」だった。今からみれば単純すぎるこの方針は,やがて進化生態学という「黒船」の襲来でパラダイム転換を果たし,遅ればせながら国際的研究の表舞台に合流することになる。当時「鎖国状態」の日本の生態学界においては,ある種の「踏み絵」だったのだ。伊藤には活発な社会運動家としての一面もあった。農林省入省直後の1952年にメーデー事件の被告となり無罪が確定するまで17年間公職休職となるも,不屈の精神で名著『比較生態学』を書き上げた。農林省農業技術研究所,沖縄県農業試験場,名古屋大学,沖縄大学と50年にわたる研究生活のなかで,個体群生態学,脱農薬依存害虫防除,行動生態学,山原生物多様性保全と,近代化された生態学の新時代の研究潮流をつねに創り続けた。伊藤の研究テーマの変遷は戦後社会を映す鏡でもある。その背中は,激しく,明るく,楽しく,そして悲しい。研究者志望の若者よ。これが昭和の快男児の研究者人生だ。
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