神奈川県内初にして唯一の「過疎地域」となった真鶴町に、横浜から移住することにした家族の姿を、夫婦それぞれの立場から記録した、フォト&エッセイ。世の中がコロナ禍の渦中にあって、進むべき方向性を見失い、社会全体が「経済活動優先」から舳先を大きく転回させざるを得なくなりつつあった矢先、彼ら家族は自らを「暮らし優先」の生活へとシフトさせていった。「片づけの魔術師」となって、田舎の空き家を自分たちの手で片づけることで、そこに過去暮らしていた人々の魂と触れ合い、残されていた遺品をリフォームして、新たな使い道の可能性を見出していく。昔ながらの部屋の間取りを現代風に広げ(壁を打ち抜いた!)、必要なものは壊した部材を使ってDIYで創っていく。港町の伝統として受け継がれてきた生活作法を綴り上げ、それらを守ることで大規模開発から町の人々の暮らし環境を保護しようとして制定された、真鶴町独自の生活デザイン条例「美の基準」に感銘し、そこに描かれている細やかなディテールを、新たな暮らしに盛り込んでいく。三方を海に囲まれ、一方を山に面する、相模湾に突き出した真鶴半島の自然環境の中、日々の気象や四季の変化を身体感覚で味わいつつ、地場が育んだ海のもの、山のものをいただく毎日の食卓。そんな「暮らしの実験」を続けながら、彼らが達した結論は、そこに癒しの空間としての整体ラボを創り、他の多くの人達にも、この場の持つ生活の健全性を分けていこう、というものだった。経済優先社会からは落伍してしまった真鶴町という小さなコミュニティから、「健康」という概念を全国的、全世界的に変えていくための、大きな変革の第一歩を踏み出そうとしている、著者の夫婦の思いが伝わる好著。ページの所々に挟まれている写真は、著者の二人が撮ったものを使用している。
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