月が綺麗な夜だった。神々しい青白い月の光が一匹の老犬を照らした。老犬は自分の老いを感じると共に、今まで生きてこられたことに感謝した。彼女の名前はステラ、ゴールデンレドリバーの雌である。 ステラを大切な子どもとして育てた両親は、自分たち自身の老いた身を案じるより、ステラの身体をいつも気に掛けていた。そんな両親を見て、ステラはもうこれ以上の負担を掛けまいと、自分を早く月の世界に連れて行って欲しいと願うのだった。 翌日からステラは、自分の意志を貫き通そうと自分を甘やかさないために、毎日の食事を拒むことにした。そして未練を残さないために今までの大切な想い出を食べることにした。 夫婦との出会いや病気になった時のことなど、夫婦の自分に注いでくれた愛情を想い出し涙しながら食べ続けた。最愛の夫や子ども達との不幸な別れや溺愛した子との別れなどの辛い想い出も何一つ残さずに食べ続けた。 想い出を食べると徐々に記憶のピースが剥がれ、ステラは次第に冷たい闇の世界に引きずり込まれていく。闇の世界に身を置くと、身体の体温は失われ、暗黒の恐怖におののいた。ステラは気付いた。自分の選択が過ちであったことに。 しかし、既に手遅れだった。絶望に陥ったとき、ステラは闇の世界にひとつの光を見出す。両親がステラの前で昔話を語り始めたのだった。自分が食べてしまった想い出が、両親の一つ一つ懐かしむような語りにより蘇っていく。 すべての想い出が蘇ると、ステラは大好物のアップルパイを最後に口にした。 かすかに映る両親の顔を見て、ステラは微笑み月に導かれるように安らかに旅立った。
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