芥川龍之介の中期から晩年にかける文学作品に焦点をあて、従来の研究とは一線を画す多層的な語り構造と認識の変容を鋭く分析した学術書である。前著『芥川龍之介論ー初期テクストの構造分析ー』において初期の習作から「羅生門」、「手巾」に至るまでのテクストを解析し、語り手としての「作者」の介入や傀儡的構造に注目した一方、本書では、心理学、心霊学、催眠術など当時の思想潮流が反映された中期以降の作品群において、狂気や無意識といったテーマがどのように表出され、また、語りの多重引用や自意識過剰な懐疑主義が、作品内のミステリアスな空間をいかに形成するのかを考察する。
序
1 芥川文学におけるミステリー
第一章 大正期における芥川の心理学受容ー「忠義」と「奇怪な再会」にみる狂気表象ー
第二章 「地獄変」論ー〈地獄よりも地獄的な世界〉の現出ー
第三章 「妖婆」論ー探偵小説の視点からー
第四章 催眠術と芥川文学ー「南京の基督」における奇跡譚の可能性ー
第五章 「奇怪な再会」論ー境界をめぐる物語ー
【コラム】変身譚としての「奉教人の死」
2 自意識から無意識へ
第一章 「偸盗」論ー自意識と無意識ー
第二章 「秋」論ー作風変化の一側面ー
第三章 神経描写のレトリックー「お富の貞操」試論ー
第四章 傀儡化する「僕」-「蜃気楼」を中心にー
第五章 「冬」論ー芥川晩年の修辞的技巧ー
【コラム】 「トロツコ」と反復脅迫
補遺 変容する父権
第一章 「素盞嗚尊」論ー父性原理と母性原理ー
第二章 「将軍」論ーN将軍への挽歌ー
第三章 「雛」論ー空間構造の視点からー
第四章 忌避される「男」性ー「玄鶴山房」の世界ー
【コラム】 「蛙」の典拠
むすびに
初出一覧
あとがき
人名索引
レビュー(0件)