十代の若者に対し、輝かしい夢を持って社会に出て行く自信を持つことの重要さを問いかけ、具体的にその夢を叶えるにはどうすればいいのか、熱く訴えかける自己啓発小説も、いよいよ最終章の第五巻を迎えた。2020年の4月20日以来、丸15ヶ月を費やして完成した、著者畢生の大作である。
中学二年生として受け持った生徒たちは、三年へと進級し受験を間近に迎える。その勉強の仕方に加え、入試直前の生活の仕方や、受験日当日の心構えなど、小山特有の破天荒な方法ながら、その忠告を素直に守った生徒たちは、70%の生徒が大学を目指すべく、進学校である岩国高校に合格を果たす。
学年トップの田辺は城西中でも十数年ぶりとなる広島大学付属高校へ入学したばかりか、中一では底辺の成績に終始していた矢野まで、最期の学年末テストでは三番をとり、みごと柳井学園高校の特待生としてトップ合格を決め、卒業式の後で職員室に戻った小山を追いかけて、素直な感謝の気持ちを伝えるのだった。
四月となり、再び中三を担任することとなった小山は、登校拒否をしていた阿部健太の自死を受け、極力生徒には優しく接しようとする。しかし新たに受け持った生徒たちの中には、様々な事情を抱えて、勉強に集中できない子供たちもいた。そうした生徒に対して、どのように指導していくべきかは、新たな問題ともなっていく。
が、直面する生徒ばかりではなく、プロのバレリーナを目指して独り横浜の女学校に入った佐々木凛花は、レッスンの途中でアキレス腱を断裂するという怪我に見舞われ、バレエへの自信を失ってしまう。そんな気持ちを切り替えるように、友達との高校生活を楽しもうとするが、その美貌に目を止められ、軽いノリでモデルの仕事を始めることになる。
仕事先は次々に広がり、やがて有名な女性誌のオーディションにも受かって、芸能界入りという夢さえも見えてきた矢先、業界の服飾コーディネーターと酒を飲み交わすうちに、腰が立たないほどの酔いに襲わてしまう。落ち着くまで自宅で休んでいくようにと誘われるまま、危機感もなく彼の家までついていくと、相手は受け入れてもらったものと勘違いして、凛花の体を求めようとしたのだ。
純潔を奪われて絶望感に浸る凛花は交番に保護されるが、頑なに連絡先を教えようとせず、顔をうずめて泣くばかりの状況に、対応した婦警も困り果てて、凛花が唯一助けを求めることに同意した小山に、早朝4時にもかかわらず連絡を取るのだった。
小山は凛花のために、一便の飛行機で東京に向かい、彼女を引き取ろうとする。精神的に死にたいと思い詰めかねない彼女を、絶対に守るのだという強い決意が、小山を突き動かしていた。そのために小山が選んだ結末とは…。
普通の単行本サイズなら七冊になるところを、一冊一冊の厚みを増やし、全五冊として上梓されるとなれば、その圧倒的な長さに敬遠する向きも多いだろうが、いったん読み始めてみれば、これまで読んだこともないストーリーに引き込まれ、ページをめくるのがもどかしく感じられるに違いない。
題字にはこれまでと同様、弘兼憲史氏の「相談役 島耕作」のタイトル、「宮島藤い屋もみじ饅頭」の看板、森進一さんのCDジャケット、千宗室氏の茶室に飾られる掛け軸などなど、数多くの作品を手がけられた岩見屋錦舟氏の鮮やかな行書体で、本のカバーと扉の第一ページ目を飾っていただいた。
解説と推薦には、高校時代の恩師である藤重豊氏に依頼し、高度成長期真っただ中で成長期を過ごした著者の時代背景を語り、小説に登場する生徒たちが目指すべき進学高校である岩国高校の歴史を紐解いて見せてくれる。
この第五巻に限られた評論ではなく、これまでに出版された四巻までの流れを振り返りつつ、それぞれの解説をして頂いた推薦者の方々の言葉を引用しつつ、全巻を通しての総括ともいえる、興味深い内容となっている。
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