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作家のキョンハは、虐殺に関する小説を執筆中に、何かを暗示するような悪夢を見るようになる。ドキュメンタリー映画作家だった友人のインソンに相談し、短編映画の制作を約束した。 済州島出身のインソンは10代の頃、毎晩悪夢にうなされる母の姿に憎しみを募らせたが、済州島4・3事件を生き延びた事実を母から聞き、憎しみは消えていった。後にインソンは島を出て働くが、認知症が進む母の介護のため島に戻り、看病の末に看取った。キョンハと映画制作の約束をしたのは葬儀の時だ。それから4年が過ぎても制作は進まず、私生活では家族や職を失い、遺書も書いていたキョンハのもとへ、インソンから「すぐ来て」とメールが届く。病院で激痛に耐えて治療を受けていたインソンはキョンハに、済州島の家に行って鳥を助けてと頼む。大雪の中、辿りついた家に幻のように現れたインソン。キョンハは彼女が4年間ここで何をしていたかを知る。インソンの母が命ある限り追い求めた真実への情熱も…… いま生きる力を取り戻そうとする女性同士が、歴史に埋もれた人々の激烈な記憶と痛みを受け止め、未来へつなぐ再生の物語。フランスのメディシス賞、エミール・ギメ アジア文学賞受賞作。
レビュー(87件)
村上春樹を思い出すような、私にはむずかしい作品でした。
済州島4・3事件
済州島4・3事件で伯父の消息を探し求めた、母と娘とその友人の物語です。会話に鍵括弧を使わない独特の文体はどのような狙いがあるのかは分かりませんが、読みづらくもなく、却って文章が詩的に感じました。済州島事件については殆ど知識がありませんでしたが、本文の証言(訳者あとがきによると一部、ハン・ガンの創作だそうですが)を読むと如何に凄惨な事件だったかが分かります。文体が読みやすく描写の細密さ、物語の展開の面白さで久々に小説でのめり込みました。訳者あとがきも事件の詳細と物語の結びつきを理解する上で必読です。