【造反者たちは孫悟空である。1968文革フォト・ポップ、あるいはアングラ・フォークロア】 1968年から70年代初頭にかけての激動の時代を背景にして、当時の慶應義塾大学における大学闘争ー全共闘運動をおもな題材にしている。 本書の書名にもなった「湘南のイコン」が陽画とすれば、その陰画ともいえる「湘南のメデューサ」。両作のパロイディ風の「1Q68鳥獣戯画 もののけ未熟大学の巻」のほか、4篇の短編小説と4篇の随筆、そして「写真と絵画・漫画コラージュ」が収録されている。さらに、1968年文化大革命中の、著者が参加した「第4次学生訪中友好参観団」の多数の記録写真など多彩多様な構成となっている。 本書の大きな特色は、当時日本との国交断絶状態のなか、プロレタリア文化大革命の嵐が吹きあれる中国へ渡航し、紅衛兵の熱狂にすっかり魂をうばわれてしまう。その後の大学立法粉砕、70年安保闘争をへて、全共闘運動も敗北。新宿「風月堂」のフーテンたちとの交流、そして湘南で息子の帰宅を待つ父母の家での生活などが、克明に活きいきと描かれていることだろう。そんな波乱に富んだ青春時代が、「無敵の毛沢東思想」に心酔する孫悟空気どりの造反者たちー紅衛兵の文化大革命を一種のポップアートとして、いっぽう「その後」の全共闘の残党としてのフーテン生活を送る自身の姿を、奇想と狂気、異形の中世画家ヒエロニムス・ボスの「放蕩息子」とよばれる聖画(イコン)に仮託しているのも、著者の独創といえよう。 こうしたコンセプトから「あの時代」の風俗と生態、ベトナム反戦・反体制運動を震源とするカウンターカルチャー、ヒッピームーブメントなど時代の精神を、実体験をもとに活写した創作と、今日では貴重な文革の記録映像でまとめられた、いわば「アングラ・フォークロア」とでも形容できる一書も、他に類書をみない。
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