ダートムア再訪はわたしにとってある意味で「帰郷」と
言っていいほどの意味を持っていた。
しかし同時に頭のなかを吹き抜ける風にあおられながら、
自分のほつれた感情にまつわる映像の断片がぐるぐると
回転するのをわたしはいくぶんうとましくも感じていた。
だれか故郷を思わざる。
だがわたしの「故郷」はつねに現実の郷里とは別のところにある
としか感じられない。
ダートムアへの「帰郷」とは確かに日本に生まれた日本人として
いかにも場違いな言い方ではあろう。
あるいは、いっそそれこそ
通俗的な観光客の心理にすぎないと言うべきなのかもしれない。
つまりそれはトポグラフィカル・スノビズムであろう。
いや言い換えればそれらの土地の景観を目の当たりにして、
ほとんどそのつどデジャヴュつまり既視感と呼ばれるあの疎隔の感じ
と懐かしさとの混交した不思議な「感覚」。
この不思議な感覚を追究すべく6篇のエセーが紡がれたのであった。
第1章 蜃気楼
第2章 光陰
第3章 満洲の記憶
第4章 二人の大尉の死
第5章 レバノンの岩山
第6章 ダートムアに雪の降る
レビュー(0件)