古代から現代に至るヨーロッパ文学史上の名作を繙き、そこに現われる彼らの死生観、言及される先行作品などを緻密に読み解く、二十年余の研究の結晶!
本書は、西欧文学史に残る作品に繰り返し描かれてきた、死別の場面や、死者と思いがけず再会する場面に着目し、作品に表された死生観を先行作品との違いや時代思潮との関連において時代順に考察したものである。古代や中世の文学作品には、主人公が生きたままあの世を訪れて、死別した肉親や恋人と再会するエピソードや、死んだ肉親が亡霊となって主人公の前に姿を現す話があり、そこには悲喜こもごもの感情が表される。近代以降、来世を具体的に描く作品は文学史の表舞台から姿を消すが、現代になっても、故人が夢に出てくる、ふとしたきっかけで故人の生前の思い出がありありとよみがえるなどのかたちで「再会」は描かれ続ける。そして興味深いのは、各時代の詩人や作家たちがそうした「再会」の場面を描くにあたり、過去の同種の場面を意識し、それを踏まえながら変更を加えていること、それによって過去の時代の死生観を修正し、自らの時代の新しい死生観を呈示していることである。ウェルギリウスはホメロスを、ダンテはウェルギリウスを意識して死者との邂逅を描いた。二十世紀の小説家ヴァージニア・ウルフは『灯台へ』で、ラムジー氏が夫人と死別する場面を描くとき『アエネーイス』を意識していたものと思われる。同様に、ディケンズは亡霊の登場する『クリスマス・キャロル』において『ハムレット』の亡霊を意識しており、ジョイスは『ユリシーズ』で、主人公ブルームが友人の葬儀に参列するエピソードを述べるにあたって『オデュッセイア』、『アエネーイス』、『ハムレット』を踏まえている。それゆえ、古代から現代に至る、これらの作品の関連する箇所を比較することによって、それぞれの作品に表されている死生観、ひいてはそれぞれの時代の死生観が浮き彫りにされるのである。(「序」より抜粋)
序
第一部 古代・中世ーー来世のリアリティー
第一章 冥界への旅ーー『オデュッセイア』と『アエネーイス』
第二章 救いに至る旅ーー『神曲』
第三章 遠ざかる天国ーーボッカッチョの二作品と『真珠』
第二部 近代ーー現世重視への転換
第四章 未知の国となった来世ーー『ハムレット』
第五章 生の讃歌と死者への思いーー『クリスマス・キャロル』
第三部 現代ーー芸術は宗教に代わりうるか
第六章 来世なき死生観ーー『灯台へ』
第七章 死者への冒?と愛ーー『若い芸術家の肖像』、『ユリシーズ』
第八章 癒しと忘却ーー『失われた時を求めて』
結論
あとがき
参考文献一覧
註
索引
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