本書〈日本古典漢字文の総合的考察〉1『假名の生態』では、日本語(倭語)が漢字假名で書かれているという原則を見失い、誤読し、誤って解釈されてきた日本古典漢字文(漢字テキスト)の表記原理について、幅広く検証し、判明した「地動説的転回」をもたらす【基本線】の1「假字音の三転」について詳述している。
全文、漢字で記されている『古事記』をはじめ『日本書紀』、『万葉集』、『風土記』などは、和語・和文を表記するために漢字(漢語、漢文措辞を含む)を使った「日本語漢字文」、すなわち、「漢字テキスト」である。しかし、現在は解釈以前の状態にあり、まず表記を解読することから始めなければならない状況にある。
江戸時代の言語学者本居宣長の『古事記傳』は、その博覧強記によって明治の文明開化以降、現在も学者・知識人(ものしり)まで圧倒している。西洋言語学をそのまま受け入れながら、いわゆる訓詁学、考証学など漢文の教養・知識によってきた。
しかし「漢字テキスト」の基本となるのは、漢字を假名として書き表されているて日本語(倭語)であり、その假名の音価は漢字音韻の影響下にある。表音文字である假名には音字假名と訓字假名とがあり、当然、音字假名による表記がさきで、それを読んで訓字假名が次の段階の表記文字として使われてきた。
しかし、スウエーデン人言語学者カールグレン(1889~1978)により、20世紀前半に上古中国語の音価の比定がもたらされ、近代科学としての中国音韻学が始められた。假字の音価に影響した中国漢字音は、音韻史的に上古前期・上古後期・中古前期音に分類されている。
したがって、その音字假名の表す音は、上古前期・上古後期・中古前期と三転していたのである。これは、日本語(倭語)の音が変化したことによるのではなく、音字假名の表す音が変遷した結果なのである。上古音によった音字假名表記を、後代、中古音として解釈し、訓字假名表記化までしたのである。
従来、それらすべてを中古前期音とし、「上代特殊仮名遣い」一覧表までつくり挙げ、多くの知識人は、訓字假名表記を単なる訓漢字とし、思考を展開してきた。しかし、三転してきた音字假名は、それらを全否定するのである。
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